蔡英文総統は先ごろ、ローマ教皇(Pope Francis)に対し、「世界平和の日」教皇メッセージに呼応する書簡を送った。ローマ教皇は2017年1月1日の「世界平和の日」に、「非暴力、平和を実現するための政治体制」と題したメッセージで、各国に軍縮、核兵器の使用禁止を呼びかけ、個人から国家に至るまで全てが愛と「非暴力」の信念を堅持し、地域間の衝突やテロリズム、移民問題、環境破壊など、現在人類が直面する危機を手を取り合って解決していくよう求めた。蔡総統は、これに深く敬服し、賛同するとしている。
蔡総統は、ローマ教皇がこのメッセージの中で、「非暴力」はカトリックだけに属するものではなく、多くの宗教の伝統だと強調していることを取り上げ、中華民国(台湾)の文化に深く影響している儒教や仏教もそれに似た理念を推賞していると指摘。孔子が語る昔の君子は、「有不善則以忠化之,侵暴則以仁固之,何持劍乎?(善ならざる者は真心でこれを変化させ、侵略者は思いやりによって防ぐ。どうして剣に頼る必要があろうか)」と述べ、仁愛で暴力に代える態度を示した。また、仏教は、「一念善生、諸悪消滅(善の心を持つことで諸悪は消え去る)」と主張、善良な心を保つことで多くの人災は防げると説いた。
蔡総統は、台湾と中国大陸にはかつて「ゼロサムゲーム」で対抗した時代があり、その時代と、台湾海峡両岸が平和的に分割統治されていることで両岸の人々がみな安心して暮らせ、働け、相互交流できる現在との対比は、我々に、ようやく手に入れた今の繁栄と安定をいっそう大切に感じさせると指摘。このため自分は2016年5月に中華民国総統に就任すると直ちに、中華民国政府は堅く揺るぎない立場を堅持し、台湾の民主と台湾海峡の平和な現状を維持していくことを宣言したと説明した。
蔡総統はまた、2016年10月の双十国慶節(中華民国の建国記念日)祝賀大会の演説においては、「現状維持」のより積極的な意義は、民主のメカニズムを深めることを基礎に、より先を見据えた積極的な行動で両岸間の建設的な交流と対話を推し進め、長期にわたって保つことが可能な、両岸の平和で安定した関係を築くことだと重ねて強調したと説明した。
平和を維持するためには善意と意思疎通が必要である。蔡総統は、両岸交渉に長く参与してきた経験から、武力では問題は解決できないと考え、両岸の平和的な往来に四つの基本的立場を提示した。それは、「(台湾の)約束は変わらない、善意は変わらない、(台湾は)圧力の下に屈しない、かつての路線に戻ることはない」というもの。蔡総統はこれらの立場を以って、両岸の「政権与党」が歴史的なわだかまりを捨て、前向きな対話を始めるべきだと主張している。
蔡総統は、ローマ教皇がイエス・キリストの足跡を引用して「非暴力」の積極的な意義を説明している点に深く同意するとし、「非暴力」は断固として恐れと妥協ではないと強調した。そして、中華民国はアジアを民主に導く灯台であり、中華民国憲法が保障する人々の生活、移動、信仰、人身などの自由が広がって、世界のより多くの人々に恩恵を与え、彼らが政治や宗教による迫害と恐怖の下で暮らさなくてもよくなることを期待した。
民主のメカニズムを深化させることのもう一つの意義は、制度の改善で弱者を救済することにある。蔡総統は、ローマ教皇が慈しみの心で関心を寄せる女性や子ども、移民、社会的、経済的に弱い立場にある人々は往々にして暴力を受けがちなグループだとし、総統に就任して以降、高齢者と女性、子どもにとって最も切実な託児サービス、長期介護、女性と子どもの安全などの問題解決に向けて、「コミュニティ介護」、「治安維持」、「安心住宅」、「食品の安全性」、「持続可能な年金」の五大社会安定計画を打ち出していることを説明した。
蔡総統は、バチカン市国と中華民国は国交を樹立して75年近くとなり、相互交流は良好で相互協力も頻繁だと評価。そして、中華民国がこれまで、バチカンの人道支援の呼びかけに応じ、ヨルダンとイラク北部の難民を援助し、西アフリカでエボラ出血熱に苦しむ人々を助け、イタリアやネパール、日本、エクアドルなどでの震災被災者に義援金を提供して支援してきたことを紹介、中華民国はこれからも断固としてバチカンと共にあり、世界各地でのカトリックの布教活動及びパストラルケア(病人やその家族の心のケア)活動にも協力していく考えを表明した。
ローマ教皇が指示し、バチカンが新たに設けた「人間開発のための部署」が1月1日に活動を開始した。ローマ教皇はそこで移民と難民に対する支援を自ら指導する。蔡総統はこれを歓迎すると共に、中華民国も「新住民」への謝意を示すため、国連の定める「国際移民デー」(12月18日)を中華民国の「移民節(移民デー)」に定めたこと、並びに中華民国が「新南向政策」を推進し、東南アジア、南アジア、ニュージーランド、オーストラリアなどとの文化と人材面での交流を強化していく考えを伝えた。「新住民」とは、台湾の人と結婚して台湾に移り住んだ海外の人たちを指す。
また蔡総統は、すでに国籍法は改正済みである他、将来的には特別法を制定して外国人がより気軽に台湾に残って暮らせるようにしたいと述べると共に、教育部(日本の文科省に類似)が2018年度の学習指導要領に東南アジアの7言語を加えることで、「新住民」たちがより容易に台湾の社会に溶け込めるようにすると説明。そして、グローバリゼーションの流れに向き合い、台湾は引き続き扉を大きく開いて、移民を仲間とみなし、多元的な文化と経済交流がもたらすプラスの効果を享受していくと強調した。
蔡総統は、ローマ教皇がメッセージの中で特に、女性はしばしば「非暴力行動」のトップランナーになるとしていることに触れ、自身は幸いにも華人社会における直接選挙で選ばれた世界初の女性総統であり、今後、常にローマ教皇の言葉で自らを戒め、励まして、台湾の人々に幸福をもたらし、台湾海峡両岸の平和に向けて新たな局面を切り開いていくと決意を述べた。