唐鳳政務委員(=無任所大臣)は10日、バチカン市国のローマ教皇庁科学アカデミー(Pontifical Academy of Sciences)の招きを受け、人工知能(AI)に関するシンポジウムに出席した。唐鳳政務委員は、台湾の民主主義に対するデジタルテクノロジーの貢献について紹介した。唐鳳政務委員が講演で使用したタブレット型コンピュータ「iPad」の裏には中華民国(台湾)とバチカン市国の国旗が並ぶシールが大きく貼られており、聴衆の目を引いた。
唐鳳政務委員が今回このシンポジウムに出席することになったのは、技術者出身のイタリアの国会議員からの推薦を受けたのがきっかけ。唐鳳政務委員によると、この国会議員は「インターネット友達」であり、これまで電子メールと音声・ビデオ・テキストチャットソフト「Skype」でしかやり取りしたことがない間柄だったという。
ローマ教皇庁科学アカデミーが主催するこのシンポジウムは、主に人工知能の応用に必要な倫理や価値観について議論するもの。米国、ドイツ、イタリア、イスラエル、ブラジルなど世界10数か国から招かれたゲストが講演を行った。
唐鳳政務委員はこのシンポジウムで、中国大陸に言及したり、これを批判したりするような発言は行わず、あくまで台湾の民主化を紹介することに重点を置いた。唐鳳政務委員は、蔡英文総統が訴える「台湾の価値」から紹介し始め、権威主義や全体主義をそれとは対極の政治モデルと位置付け、会場に集まった人々に対して、双方を比べて、その違いを解読して欲しいと呼びかけた。
会場では、科学技術が民主主義を後退させると懸念する声も少なくなかった。例えば検索エンジンのGoogleやソーシャル・ネットワーキング・サービスのフェイスブックなどの大手企業は、デジタルテクノロジーの世界で過度な権力を持つ一方で、あまり監督を受けていないということについて、疑問と懸念を示す専門家もいた。
こうした悲観的な発言に対してシンポジウムの司会者は、デジタルテクノロジーが台湾の民主化にプラスの影響を与えたという唐鳳政務委員の発表を取り上げた。例えば、台湾ではタクシーの主務官庁が自動車配車アプリ「Uber」の運転手と話し合う際、デジタルプラットフォーム「vTaiwan」を活用していること、中華民国政府が設立した「社会創新実験中心(ソーシャル・イノベーション・ラボ)」では、中央省庁の職員が社会的企業と定期的にWeb会議を開催し、民間のニーズを政府が速やかに汲み取れるようにしている、などの取り組みに言及した。