Loke Swe君(15歳)はミャンマーからやって来た男の子。5本の指が癒合した状態で生まれてきた。合指症という先天異常で、手のひらが「アヒルの水かき」のようになっている。何をするにも、両手で「はさむ」ようにして成し遂げねばならず、生活上不便を感じていた。
Loke Swe君はミャンマーの少数民族の生まれ。この地方の医療水準は低く、Loke Swe君の手を看てくれる医療機関などなかった。しかも、Loke Swe君の家は貧しく、両親もLoke Swe君のことは天に任せるしかないと考えていた。
2017年、Loke Swe君が住むコーカンで戦闘が発生した。Loke Swe君の両親は子どもを育てることができなくなり、Loke Swe君は同じような境遇の子どもたちと一緒に、ヤンゴンにある施設に送られることになった。華人が設置した学校に通うようになったLoke Swe君には「張子墨」という中国語名が与えられた。
今年4月、整形外科を専門とする財団法人新光呉火獅記念医院(=病院)の侯勝茂院長が医療チームを率いてヤンゴンを訪れた際、Loke Swe君の状況を知った。新光医院の医療チームは、身体の欠陥にも負けずに行動するLoke Swe君の勇気に感動。帰国後、専門の医療チームを組織すると共に、治療に必要な費用を病院側が負担し、片手で鉛筆を持って字や絵を描きたいというLoke Swe君の夢をかなえることを決めた。
執刀を担当した新光医院整形外科の林育賢主任によると、5本の指の骨が癒合した状態で生まれるという先天異常は、全世界でも約2000分の1から3000分の1の確率で発生する。Loke Swe君のケースは、親指とその他の指の長さがほぼ同じで、すべての指先の関節がほぼ癒合しており、これを切り離すのは非常に困難だった。
医療チームはまず、最初の手術で両手の親指と手のひらを切り離した。2回目の手術では、中指と薬指を切り離した。こうして「アヒルの水かき」の状態だったLoke Swe君の手は、3本指のような状態に切り離されることとなり、ものを「握る」という機能が備わった。
Loke Swe君は取材に対し、「台湾で手術を受けることが出来てとても嬉しく思う。ミャンマーで勉強していたときは、両手で鉛筆を挟むようにして字を書いていた。不便というだけでなく、スピードも遅く、その動作が変だとほかのクラスメートから笑われていた。手術後はそういう問題がなくなった」と語った。
新光医院の洪子仁副院長によると、新光医院は中華民国政府が推進する「新南向政策(東南アジア、南アジア、オーストラリア、ニュージーランドを含む18カ国との関係を強化する政策)」に積極的に協力しており、その一環として行われている「一国一中心プロジェクト(台湾の6つの大手医療機関がチームを組み、インドネシア、インド、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシアの6カ国に医療センターを設置するというもの)」ではミャンマーを対象国としている。今回の治療はLoke Swe君を助けるというだけでなく、国際社会における台湾医療のプレゼンスとイメージを高め、台湾の医療の実力を示すことにもつながると指摘している。