蔡前総統のスピーチ前に、会場では台湾に関する2つのイベントが行われた。一つは台湾海峡の危機を描いた台湾ドラマ『零日攻撃(ZERO DAY)』の脚本家、鄭心媚さんと、このドラマで新任の女性総統を演じた謝怡芬(ジャネット)さん、それに台湾と中国の緊張関係に焦点を当てたドキュメンタリー『看不見的国家』(邦題:インビジブル・ネーション 蔡英文が語る台湾)のヴァネッサ・ホープ監督による対談。もう一つは、リトアニアの元外務副大臣で国際組織「 民主主義共同体」(Community of Democracies /CoD)事務局長のマンタス・アドメナス(Mantas Adomenas)氏による「台湾はなぜ欧州にとって重要なのか」と題する講演。アドメナス氏はリトアニアによる台湾支持の事例を挙げて、「欧州には台湾の民主主義を果敢に守る義務がある」と訴えた。
続いて行われた蔡英文前総統のスピーチの概要は以下のとおり。
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貿易上の利益の再調整や安全保障上の責任の再分配などによって生じる可能性のある衝突に対して、民主主義諸国は一致団結し、個々の国々あるいは集団としての危機管理能力を効果的に維持していく必要がある。こうした努力は必ず継続的で揺るぎないものでなければならない。なぜなら相手は日々他国との連携を図り、さまざまな新たな手段を探し出しては民主社会の分断を図り、民主制度を蝕み、社会の対立を煽ろうとしているからだ。
いまこそ積極的に国際社会とつながり、その対応について柔軟に調整すべき重要な時期だ。国際社会における相互作用のルールはすでに変化しており、それに応じて集団的な戦略も調整し、進化させていかなければならない。
現在のこの状況において、民主諸国は国家の安全と経済的繁栄を確保するため、新たな戦略を構築する必要に迫られている。挑戦に直面する中でレジリエンス(強靭性)を構築することは、生存のための鍵となるだろう。
台湾は「レジリエンス」とはなにかを深く理解している。なぜなら台湾の人々は、民主主義の不完全さを利用して体制を破壊しようとする勢力があることを身をもって経験してきたからだ。台湾の人々はかつて権威主義体制によって傷つけられてきた。いまは、日々エスカレートする脅威や威嚇と向き合っている。
中国はこれまでに、サイバー攻撃、ハッキング、軍事演習などを通じて台湾の人々に恐怖を抱かせ、無力化させようと企んできた。しかし、その思惑は外れた。台湾の人々はむしろ、これらの挑戦を「レジリエンス構築の基礎」に転化させてきたからだ。
この「レジリエンス」こそが、台湾の選挙を権威主義の干渉から守り、パンデミックを乗り越え、情報操作への警戒心とリテラシーを高めることを可能にした。このレジリエンスは個人から集団、経済から国防に至るまで、あらゆる領域に及んでいる。台湾はいま、国防、デジタル化のインフラ建設、経済・貿易方面などでレジリエンスを高めるために努力をしている。
台湾は今後も、平和と安定を望むすべての人々と共に歩み、過去数十年にわたる経験と学習の成果を国際社会と共有したいと考えている。アジア太平洋地域から全世界に至るまで、私たちが大切にする「自由と民主主義」という価値を守るための力と備えを高めていきたい。
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蔡英文前総統は2020年以来、毎年、オンライン方式でコペンハーゲン民主主義サミット(Copenhagen Democracy Summit)で演説を行ってきた。実際にコペンハーゲンに足を運んで参加するのはこれが初めてだ。
主催機関であるアライアンス・オブ・デモクラシーズ(AoD)のジョナス・パレロ・プレスナー氏は、蔡英文前総統のコペンハーゲン民主主義サミット出席を喜ぶとともに、「このサミットが続く限り、台湾の関係者には引き続き参加を要請することになるだろう」と述べた。