外交部は6月8日から14日にかけて「フランス語圏の政治・経済担当記者団」を台湾に招聘した。ハイチ、コートジボワール、フランス、スイスなどフランス語圏の各国で活躍する記者たちで、台湾滞在期間中は主要な政府機関、民間企業、文化施設などを訪問したほか、外交部の呉志中政務次長(=副大臣)や唐鳳(オードリー・タン)無任所大使などと意見交換を行った。取材の内容は、すでにフランスの週刊経済新聞『ラ・トリビューン(La Tribune)』や週刊誌『レクスプレス(L’Express)』、ハイチの『ル・ヌヴェリスト(Le Nouvelliste)』など影響力を持つメディアによって報道され、フランス語圏における台湾の認知度向上につながっている。
【半導体産業の発展】
『ラ・トリビューン』は呉志中政務次長の発言を引用し、世界全体の最先端チップの生産に占める台湾製品の比重が、これまでの93%から、2024年は95%へとさらに拡大したことは、半導体産業における台湾の主導的地位がより一層強固なものになったことを示すものだと述べた。呉次長はまた、台湾がオランダのASML、フランスのエア・リキード、ドイツのBASFといった欧州企業との協力を深化させていることに言及し、一方で中国は、米国による輸出規制や技術的なボトルネックの影響を受け、短期的に台湾の産業水準に追いつくことは困難だとの見方を示した。
【両岸の経済・貿易関係】
『ラ・トリビューン』は呉次長の説明として、台湾企業の対外投資に占める対中国投資の比重が2014年の84%から、2024年は7%へと大幅に減少したことを紹介。これは台湾が海外市場の多様化を図り、米国、日本、欧州および南アジアなどとの経済・貿易方面での連携を強化しているためだと伝えた。『ラ・トリビューン』はまた、呉次長が「台湾と中国の間ではいまも経済的往来は存在しているものの、サプライチェーンの再構築や主要な原材料の調達先の調整という点において、台湾は強靭性と先見性を備えた戦略を持っている」と強調したことを紹介している。
【TSMCの米国工場建設について】
週刊誌『レクスプレス(L’Express)』は台湾の半導体大手であるTSMCが対米投資の強化を決定したことが、台湾にとっての「シリコンシールド(半導体の盾)」の弱体化に繋がるのではないかという懸念があることについて、呉次長の見解として「半導体は台湾外交が独自に持つ優位性であり、それは台湾と各国とのウィン・ウィンの協力を促進することができるものだ。米国工場で生産されるのは生産プロセス4ナノメートルのチップであり、台湾工場はすでに2ナノメートル世代へと移行している。これは、台湾が持つ技術的優位性が、依然として世界をリードしていることを意味する。台湾にとって真に警戒しなければならないのは中国の台湾に対する侵略のリスクであって、台湾企業による海外投資ではない」と伝えている。
【アメリカ・ファースト(米国第一主義)政策の影響は?】
『レクスプレス』は、ピート・ヘグセス米国務長官が「中国から台湾への脅威は『差し迫った状況だ』と発言したことを引用して、トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の政策が、米国がこれまで維持してきた台湾の安全保障へのコミットメントに変化を与えるのではないかとの疑念が広がっていることを指摘した。これに対して呉次長は、「台湾海峡で万が一にも衝突が発生した場合、中国はそれに対して大きな代償を払うことになるだろう」と答えた。
【台湾の民主主義の価値】
ハイチの『ル・ヌヴェリスト』は台湾の民主主義の価値に焦点を当てて報道した。記事では呉次長の発言を引用して、「台湾の民主主義が少しでも揺らぐことがあれば、それは地域の不安定化を招き、世界経済にも深刻な影響を及ぼすだろう」と指摘した。呉次長はさらに、「平和こそがインド太平洋地域にとって唯一の選択肢だ」として、台湾が民主制度を堅持することで、地域の安定にとって重要な役目を果たしていることを強調した。
【情報戦への対応能力強化】
記者団は台湾の「初代デジタル大臣」と称され、現在は無任所大使を務める唐鳳(オードリー・タン)氏に対する取材も行った。フランスの『ラ・トリビューン』は、唐氏が進める台湾の対情報戦の防衛力強化の取り組みを紹介。法改正によって政治に関する広告についてデジタル署名を義務付けたこと、これによってSNS上の虚偽の広告が約90%減少したことなどを挙げ、政策の効果が表れ始めていることを伝えた。唐氏は2019年以降、台湾のすべての学校でメディアリテラシー教育が導入され、若い世代のフェイクニュース(偽情報)や不正操作を見抜く能力を育成していることも紹介した。