1947年2月28日に発生した二・二八事件から77年を迎えた28日、蔡英文総統は嘉義県政府前広場で行われた「中枢紀念儀式(=中央政府主催の記念式典)」に出席し、事件の犠牲者のために献花を行うとともに、犠牲者4名の遺族に対して名誉回復の証書を手渡した。式典には、台湾全土の犠牲者遺族、行政院の陳建仁院長(=首相)、内政部の林右昌部長、文化部の史哲部長、嘉義県の翁章梁県長(=県知事)、二・二八事件紀念基金会の薛化元董事長らが出席した。蔡総統の式辞は以下のとおり。
★★★★★
二・二八事件は台湾の人々の民主主義と自由に対する渇望を刺激した。しかし、当時の権威主義的で高圧的な統治は、民主主義の種子が育つのを抑制し、台湾は「白色テロ」の時代を迎えた。
この困難な過去は、台湾の歴史における傷だ。傷を癒すには、傷を負った原因を解明する必要がある。真摯に真相と向き合い、互いの声に耳を傾けることが傷の縫合につながり、真の和解を実現することができる。そうすることで、過去の歴史は二度と台湾を分裂させる原因ではなくなるのだ。それにより、台湾の人々もよりしっかり民主主義を守り、前進できるようになるだろう。
過去8年間、我々は「移行期正義」の実現に取り組んできた。法制面ではまず「政党及其附隨組織不当取得財産処理条例」、「促進転型正義条例」、「国家人権博物館組織法」、「政治档案条例」、「威権統治時期国家不法行為被害者権利回復条例」の5つの法律を制定し、「移行期正義」を実現するための土台を作った。これと前後して、政府内に関連の作業を担当する組織やメカニズムを構築し、「移行期正義」を実現させるためのエンジンとした。「促進転型正義委員会(=移行期正義促進委員会)」がその段階的な任務を終えた後、行政院は関連の業務を6つの部会(=省庁)に振り分け、「移行期正義」の実現に取り組んでいる。
こうした基礎の上で、政府は4つの「真相調査報告」をまとめ、歴史の真実をつまびらかにした。新たな法制度の下、政党が保管する「政治档案(=公文書)」や不当に得た財産を処理した。国有化した不当な党産(=政党の財産)は基金を設け、公益事業や「移行期正義」に関する業務に使えるようにした。
我々は、(二・二八事件及びその後続いた白色テロの)被害者に対する名誉回復と賠償金の支払いを実現した。「権利回復基金会」は設立から1年余りで、すでに2,000件近い賠償金の申請を受理してきた。昨年は、権威統治時期に国家によって不当に没収された財産の返還作業に初めて着手し、合計40億元(約190億日本円)以上の賠償金の支払いを承認した。
「移行期正義」の実現は、決して特定の政党に矛先を向けたものではない。民主政治を行う政府だからこそ、過去の権威統治の国家の不当な行為に対して責任を負い、損害賠償を行う必要があるのだ。台湾の過去の歴史に真摯に向き合うことで、台湾の民主主義のメカニズムがさらに深化し、且つ進化することができるのだ。
長年の努力によって、二・二八事件紀念基金会はこれまでに2,340名の賠償対象となる被害者を確認すると同時に、4,000名余りを「被害者の可能性がある人」としてリストアップしている。後ほど私は政府を代表して、事件の被害者4名の遺族に名誉回復の証書を授与する。そのうちの2名はもともと「被害者の可能性がある人」としてリストアップされていたが、過去の公文書が公開されたことで、改めて「被害者」として認定された。このことから分かるように、歴史の真相をつまびらかにするために、政府にはまだやらなければならないことがたくさんあるのだ。ゆえに政府は昨年、「政治档案条例」の修正を進めた。与野党の支持を得た結果、きょう(2月28日)より施行されることになっている。「政治档案」は歴史の真相を明らかにするためのパズルを埋めるピースの一つだ。関係者には、開放的な態度をもって特定秘密の指定を解除し、より多くの「政治档案」を開示するようお願いしたい。
こうした「移行期正義」の取り組みは、真相、正義、権利の回復、追憶の幅を広げてきた。より重要なことは、二度と過ちを犯さないとの思いを強めたことだ。これらは国際社会が認識する「移行期正義」の五大支柱でもある。
台湾の社会はそれぞれの方法で、「移行期正義」に取り組んでいる。例えば二・二八事件の犠牲者のドキュメンタリー映画である『尋找湯徳章』が来月上映されることになっている。また、毎年開催されている「共生音楽節」(歴史に関心を寄せる若者たちが中心となって開始するコンサート)も今年で12回目となる。
「移行期正義」の実現のために長年取り組んでいる民間団体や若い人たちに感謝したい。あなたたちの取り組みは台湾の民主主義の「たいまつ」を灯すためのたきぎとなって、台湾の民主主義をさらに発展させることだろう。
また、行政院、「促進転型正義委員会(=移行期正義促進委員会)」、不当党産処理委員会、各省庁、民間団体の協力にも感謝する。我々は一緒になって二・二八事件や白色テロ事件を覆っていたほこりを取り払ってきた。しかし、我々は知っている。こうした努力も、事件の被害を受けた先人やその家族たちが受けた苦しみに比べれば小さなものであるということを。
「移行期正義」の実現への道に近道はない。記憶に残された傷は、簡単に消えることはない。我々の世代が実際の行動をもって、歴史と平和共存できる方法を探し、より開放された社会を作らなければならないのだ。
さきほど江栄森さん(犠牲者遺族の一人)が提示した3つの意見については、私も行政院と議論したことがある。実際、この3つの意見についてはいずれも行政院が現在取り組んでいるところであり、行政院の業務が一段落すれば、説明することになるだろう。これらは政府がやるべき仕事であり、我々はこれからも努力していきたい。
過去について、我々はそれを忘れてはならないし、思い出すことを恐れる必要もない。未来について、我々はこれからも対話を深め、民主主義が永続する社会的共同体を追求しなければならない。