エネルギー問題
2016年と比べると、2025年現在、水道・電力・土地などの「5つの不足」問題はかなり解決されている。データセンターやAI(人工知能)などの産業による電力需要を考慮に入れても、2032年まで台湾の電力供給に問題はないと考えている。台湾は同時に、引き続き再生可能エネルギーの開発に力を入れている。現在不足しているのは、この再生可能エネルギーの部分だ。気候変動や欧州連合(EU)が求めるCBAM(炭素国境調整メカニズム)に対応するためにも、政府は今後も再生可能エネルギーの開発に力を入れる考えだ。
五大信頼産業
地政学的変化、世界規模のスマート化時代の到来、そして台湾が持つ産業的優位性などを考慮し、自分は総統就任後、(台湾が今後力を入れていく)「五大信頼産業」として半導体、人工知能(AI)、軍需産業、セキュリティ産業、次世代通信を掲げてきた。また、これらの産業へのテコ入れを強化するため、人材育成、税制優遇、融資支援、国際連携に力を入れている。海外進出した台湾企業による対台湾回帰投資(Uターン投資)を促す「投資台湾三大方案」は2018年に始まったものだが、これまでに2兆5,389億元(約11.4兆円)を超える対台湾投資が行われ、それによって16万1,267個の雇用機会が創出された。この「三大方案」は2027年まで延長され、さらに4万個の雇用機会を創出し、6,000億元(約2.7兆円)の投資を呼び込めると見込んでいる。
台湾が直面する3つの課題
台湾はいま、権威主義国家の連携による米中サプライチェーンの分断、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、ネット・ゼロへの転換という3つの課題に直面している。台湾は今後、中国企業を排除した「ノン・レッド・サプライチェーン」における存在感を強める必要がある。もし台湾が「ノン・レッド・サプライチェーン」から離れるようなことがあれば、経済発展のためにかけた苦労が水の泡になってしまう。台湾はいまも変化しており、チャンスを自らつかみ取らなければならないのだ。
ネット・ゼロ
温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引いて実質ゼロにする「ネット・ゼロ」の実現に向けて、台湾は低炭素経済を発展させ、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めて「人工知能(AI)の島」を目指す必要がある。政府は、「産業創新条例」の改正を通じて、AIやネット・ゼロ関連の設備投資を減税の対象に加えるほか、DX、ネット・ゼロ、市場の開拓など3つの戦略を通じて、中小企業および小規模企業の高度化支援につながるさまざまな振興計画を進めている。
航空宇宙産業
台湾はいま、次世代通信産業の発展につながる中低軌道衛星の開発に積極的に取り組んでいる。また、台湾の工作機械や基礎工業は、台湾が優位性を持つICT産業と融合することで、低軌道衛星産業のグローバル・サプライチェーンに食い込むことに成功している。このほか政府は、台湾をアジアにおける無人機の民主主義サプライチェーンの中心地にすることにも取り組んでおり、2028年には無人機の生産高が現在の10倍、つまり300億元(約1,350億円)に達する見込みだ。
海外との投資協定
台湾企業が台湾に根を下ろしつつ世界市場を開拓し、グローバルなマーケティングを展開できるよう、政府は台湾の投資環境の改善に取り組んでいる。また、インドネシア、フィリピン、タイなどと投資保護協定を締結したり、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」への加盟を積極的に推進している。台湾と米国の新たな貿易協議の枠組み「21世紀の貿易に関する台米イニシアチブ」は今後、第2段階の交渉に入る予定だ。
台湾企業の投資先の変化
2010年、台湾にとって最大の海外投資先は中国で、その割合は全体の83.8%を占めていた。しかし、2024年はその比重が8%に減少。台湾の主な投資先はアメリカが42%を占め、それ以外は日本、EU、新南向政策対象国(ASEAN諸国、南アジア、豪州、ニュージーランドなど18か国)となっている。
終わりに
今日はこの貴重な機会を利用して、政府のさまざまな政策について皆さんに報告した。自分は総統就任後、蔡英文前総統の政策を引き継ぎつつ、台湾の経済発展のための新たな戦略的ビジョンを提示してきた。皆さんと共に努力して、国家が引き続き前進し、次世代のためにより良い国を残し、世界のためにより良い台湾を提供できるよう心から願っている。