2025/04/28

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文化・社会

「鬼月」と呼ばれる旧暦7月の意味

2016/08/12
台湾では旧暦7月を「鬼月」と呼ぶ。旧暦7月1日(今年は8月3日)に「鬼門」(あの世の扉)が開き、それから1カ月間、先祖や無縁仏の霊がこの世に戻ってくるとされる。(中央社)

台湾では旧暦7月を「鬼月」と呼ぶ。旧暦7月1日(今年は8月3日)に「鬼門」(あの世の扉)が開き、それから1カ月間、先祖や無縁仏の霊がこの世に戻ってくるとされる。この世の人々はこの時期、こうした霊たちに供え物をして供養するため、「普渡」と呼ばれる儀式を行い、「好兄弟(良い兄弟の意味)」と呼ばれる無縁仏たちに、この世を楽しんでもらう。「普渡」は旧暦7月15日(中元節)だけに限らず、旧暦7月1日から30日までの間であれば、いつでも行うことができる。 この世界には、「陰間(冥界)」と「人間(人間界)」と「天堂(極楽浄土)」とがある。「陰間」に住む霊たちは、生前に悪事を働いたため、18層もあるという地獄に落とされ、長い間、骨に釘を打たれたり、舌を抜かれたりする裁きを受けている。罪が軽い場合は、第1層や第2層の地獄しか行かなくていいため、肉体の苦しみは比較的少ない。 しかし、大罪を犯した「悪鬼」であろうと、「可憐鬼(気の毒な霊)」や「餓死鬼(餓死した霊)」であろうと、旧暦7月1日になると1カ月の「休暇」を得ることができる。「陰間」を離れ、子どものように楽しい「夏休み」を過ごすことができるのだ。 7月1日零時に「鬼門」が開くと、「陰間」に住む霊たちは人間たちにとっての「好兄弟」となり、自由自在に人間界を移動できるようになる。行動が制限されることもなく、地獄での苦しみから一時的に解放されるのだ。唯一の不便といえば、その地域を管理する神がそばにいるということ。霊たちを管理する神とは、俗にいう「土地公(日本のお地蔵さまに類似)」である。 「陰間」からやって来る「好兄弟」を歓迎するため、人々は7月1日から30日までの1日を選び、「普渡」と呼ばれる儀式を行う。多くの食べ物を用意し、盛大にもてなす。道教の廟や村々では旧暦7月15日の「中元節(今年は8月17日)」当日、村を挙げて盛大に「普渡」の儀式を行う。 「普渡」の儀式は非常に慎重に、じっくりと時間をかけて行われる。準備するお供え物の内容から、霊があの世で使うために燃やす「紙銭(紙のお金)」まで、すべての行為に意味がある。例えば、顔を洗う水。「好兄弟」が食事を済ませたあとに、手や顔を洗えるように、必ず準備しておかなければならない。また、「普渡」は午前中に行うのが好ましい。そこでお腹いっぱいにならなかった「好兄弟」たちが、ほかの家に行って引き続きお腹いっぱいに食べられるようにするためだ。 旧暦7月は「好兄弟」が人間界を自由に動き回っているため、人間界にはタブーも多く、様々な行為が禁じられている。これは主に「好兄弟」を怒らせないためだ。例えば親たちは、子どもが「水鬼(水の霊)」に連れていかれないよう、子どもたちに対して、水遊びをしない、遠くに遊びに行かない、遅い時間に出歩かないようにと言い聞かせる。また、虫や蛇などは「好兄弟」が姿を変えたものかもしれないので、むやみに叩いたり、殺したりしないように、子どもたちに注意する。 これらのタブーは、農村では特に深い意味を持っている。旧暦7月は、1年でも最も暑い時期にあたり、子どもたちは水遊びをしたがる。しかし、この時期は渓流の水かさが増すため、水遊びには危険が伴う。水難事故の多くはこの時期に発生している。しかし、農村の父母たちは仕事で忙しく、子どもたちに構うことができない。このため旧暦7月は水遊びをタブーとし、間接的に、両親たちの代わりに子どもたちを守る働きをしているのである。 夜の外出や遠出を禁止するのも、事故を防ぐためだ。また、殺生を禁じるのは、生命を尊重するための一つの手段であり、生命に安らぎの時間を与えるためである。 台湾の旧暦7月は、賑やかに「普渡」の儀式が行われる。人間界にやってきた霊魂に対して畏敬の念を抱くだけでなく、地域住民を結束させ、人々の感情を通わせる役割も果たしている。そこにはまた、生命を大切にし、尊重するという意味も含まれているのである。

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