フランスの出版社L’Asiathèqueが今年3月、台湾の小説を相次いで翻訳出版した。出版されたのは呉明益さんの小説『天橋上的魔術師(仏題は『Le Magicien sur la passerelle』、邦題は『歩道橋の魔術師』)』と、台湾の作家9名によるエッセイ集『台北-街角的故事(仏題は『Taipei-histoires au coin de la rue』)』。
『天橋上的魔術師』の著者である呉明益さんにとって、フランスでの出版は長編小説『睡眠的航線』と『複眼人』に続く3冊目。フランス語への翻訳は、Gwennaël Gaffricさんが手掛けた。『天橋上的魔術師』は短編小説集だが、オムニバス形式になっていて作品同士が巧妙に結びついている。1960~1970年代に繁栄を誇った台北市西門町は、1990年代初頭に商業ビル「中華商場」が取り壊される。この時代を背景に、一人の「魔術師」を中心に、子どもたちのまなざしと記憶を通して、立ち並ぶ商店や人々が行き交う商業ビルで起こった出来事を振り返る作品。仏の大手書店「FNAC」ナント店で、最も心を打たれた書籍の一つに選ばれている。
呉明益さんは台湾で人気の、そして今後の活躍が期待される若手作家の一人。その長編小説『複眼人』は、海外の大手文学出版社によって版権が買い取られた台湾の小説第1号となり、すでに複数の外国語に翻訳されている。フランスの文学賞「Prix du livre insulaire」の小説部門でも大賞を獲得している。なお、呉明益さんは環境保護運動家としても知られている。
『台北-街角的故事』は、台湾の作家9名の視点から見た台北を描いたアンソロジー。フランスの読者にとっては、台北という街に対する理解を深められる、全く新しい体験になる。収録されているのは簡媜さんの『台北小臉盆』、林耀徳さんの『龍泉街』、駱以軍さんの『中正紀念堂』、呉明益さんの『厠所的故事』、瓦歴斯・諾幹(ワリス・ノカン)さんの『這、悲涼的雨』、張萬康さんの『電動』、周丹頴さんの『夜帰』、紀大偉さんの『一個陌生人的身分証明』のほか、各作品の間に舒国治さんの『台北小吃』のエッセイが挿入されており、台北のレストランやナイトマーケットなどが紹介されている。全体を通して、台北の建築物、台北の色彩、台北の味覚、台北の雰囲気などが伝わる作品となっている。
L’Asiathèqueは、アジアの書籍を専門に取り扱う出版社。2015年に「台湾小説(Taiwan fiction)」文庫を設立。主に環境問題、方言、文化アイデンティティ、植民主義が集合記憶に与える衝撃、グローバル化が伝統生活に与える影響、ジェンダー問題などについて掘り下げた作品を選んで翻訳している。2015年には朱天文さんと呉念真さんが執筆した映画『悲情城市』の脚本や、紀大偉さんの『膜(邦題も同名)』を翻訳、出版した。『膜』は今年2月に文庫本化された。今回出版された『天橋上的魔術師』と『台北-街角的故事』は、同文庫が出版する3冊目及び4冊目の書籍となる。
この2冊の書籍のフランス語への翻訳は、台湾の文化部(日本の文部科学省に類似)が実施する翻訳出版助成計画と、その下部組織である駐仏台湾文化センターが支援したもの。台湾文化センターは今年6月1日から6日まで、呉明益さん、舒国治さん、そしてフランスを拠点に活動する台湾人作家の周丹頴さんを招き、新刊書発表会と座談会などを行う。詳細は今月末に文化部駐仏台湾文化センターの公式サイト及びフェイスブックページで通知する。