2025/05/02

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文化・社会

孫立人将軍の貴重な写真、「孫立人将軍官邸」で初公開

2017/05/05
台湾北部・台北市中正区にある南昌路と福州街の交差点付近にたたずむ和洋折衷の建築物は、かつて抗日戦争(日中戦争)・太平洋戦争でその名を轟かせた中華民国の軍人、孫立人(1899-1990年)の屋敷である。(「孫立人将軍官邸」フェイスブックページより)
台湾北部・台北市中正区にある南昌路と福州街の交差点付近(台北市中正区南昌路1段136号)に、日本占領時代に建てられた和洋折衷の建築物がひっそりと建っている。この大きな屋敷が、かつて抗日戦争(日中戦争)・太平洋戦争でその名を轟かせた中華民国の軍人、孫立人(1899-1990年)のものであったことはあまり知られていない。
 
この屋敷が建てられたのは、日本が台湾を占領していた1907年(明治40年)のこと。台湾総督府土木局水道課の課長官邸として建設されたものだが、当時は台湾総督官邸(現在の台北賓館)に次ぐ規模のもので、そのことから日本人がいかに台湾の衛生事業や上下水道整備を重視していたかを伺い知ることができる。
 
ここは、甲午戦争(日清戦争)や日俄戦争(日露戦争)で日本陸軍を指揮した皇族、閑院宮載仁親王が台湾を訪れた際に宿泊したことから「皇族御用邸」としても位置付けられ、日本陸軍とも深い関係を持つことになった。日本政府が1919年、台湾に「台湾軍司令部」を設置すると、この屋敷も1922年に「台湾軍司令部司令官官邸」に改められることになった。
 
日本が第二次世界大戦に負けると、中華民国国軍が1947年にこれを接収。屋敷は、抗日戦争(日中戦争)や太平洋戦争で活躍し、「抗日戦争の神」と称えられた孫立人将軍を新たな主人に迎えた。孫立人将軍の役職と共に、屋敷の名称も「陸軍訓練司令官邸」、「台湾防衛司令官邸」、「陸軍総司令官邸」と変化した。
 
孫立人将軍は台湾で新兵の訓練を命じられ、国軍の近代化に取り組んだ。中国大陸から台湾へと撤退してきた国民政府の軍隊を再編し、「女青年工作大隊」や「幼年兵総隊」を編成し、中国大陸から台湾へやってきた青年や戦争遺児らをまとめ、これらを収容し、教育するなどして、完全な兵役制度と幹部候補生育成制度を確立した。こうした新兵の訓練によって台湾防衛の基礎を打ち立てたのだ。しかし1955年、孫立人将軍は、部下が中国共産党のスパイとしてクーデターを企てていたことを「容認」したとの嫌疑をかけられ、引責辞任した。軍の粛清により、孫立人将軍の配下にある300人余りも逮捕、投獄された。
 
孫立人将軍はその後、台北での自宅軟禁生活を強いられる。その後、台湾中部・台中市へ転居を命じられ、そこで長い間、軟禁生活を余儀なくされる。台北の官邸にあった孫立人将軍に関する写真や資料は、すべて当局による調査の対象となり、破棄されることになった。そのうち写真やネガは、当時、従軍カメラマンだった羅超群が命の危険を冒して救出したが、革製のスーツケース3つに隠され、60年以上も日の目を見ることがなかった。孫立人将軍の台北官邸はその後、「陸軍軍官倶楽部」となったが、一般市民が中に入ることはできなかった。1998年にレストラン「陸軍聯誼庁」に改められ、初めて対外的に公開された。
 
孫立人将軍について触れることは、国軍の中で長い間タブーとされ、それがレストラン「陸軍聯誼庁」をより一層神秘的な存在にしてきた。その中には、第二次世界大戦で負けた日本の軍人たちが、その事実を受け入れられず、武士道精神にのっとり集団自決をしたため、夜間になると人の足音が聞こえたり、軍用の電話が鳴ったりするといった奇怪現象が起こっていたが、孫立人将軍がここに入居して以来、こうした現象はぱったりとなくなった、などのうわさがまことしやかに囁かれた。
 
近年になって孫立人将軍の歴史的評価が見直されるようになると、それに伴って「陸軍聯誼庁」の文化資産としての価値も重視されるようになった。2004年、台北市はこれを「市定古蹟」に認定。所有権を持つ陸軍司令部は近年、行政の予算5,000万台湾元(約1億8,500万日本円)近くを投じ、大規模な改修工事を行った。かつての将軍官邸の面影を取り戻したこの屋敷は、今年2月、台北市文化資産審議会によって「原台湾軍司令官官邸(孫立人将軍官邸)」へと改名された。孫立人将軍の戦後台湾における歴史的役割は、より脚光を浴びることとなった。
 
国防部陸軍司令部は文化資産の活性化を目指し、「孫立人将軍官邸」の運営を民間企業に委託。レストランと、クリエイティブ商品の展示を行う複合式経営を行い、台北市にあるこの隠れ家的なスポットへの人々の関心を引き付けている。
 
従軍カメラマンだった羅超群が「白色テロ」の脅威を恐れず、守り抜いた孫将軍の貴重な写真の数々も、将軍官邸の復元と共に60年以上の眠りからついに覚めることになった。孫立人将軍の学生時代、抗日戦争、ミャンマー遠征、国共内戦、台湾への撤退、金門島をめぐる古寧頭戦役、台湾での新兵の訓練、「女青年工作大隊」や「幼年兵総隊」の編成など、孫立人将軍にまつわる貴重な写真の数々が、この「孫立人将軍官邸」で5月6日に初公開される。展示期間は6月6日まで。

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