2025/08/07

Taiwan Today

文化・社会

デジタル時代の活字ドリーム、「生きている限り彫る」=活字鋳造師

2017/05/12
現在、台湾、ひいては全世界の繁体字の漢字文化圏で繁体字の活字を鋳造するための銅金型が最もそろっているのは「日星鋳字行」。クラウドファンディングで金型の修理を進める。写真は張介冠さん。(日星鋳字行ホームページより)
台湾で唯一鉛活字を生産する「日星鋳字行(Ri Xing Type Foundry)」(台湾北部・台北市)は5月1日で創業から満48年となった。二代目の経営者である張介冠さんは、鉛活字のための銅金型を修理する職人を育てるのは今後不可能なため、「自分が生きている限りは彫る」と話し、残された時間と競争しながら活字文化の保存に取り組む決意を示している。
 
デジタル技術の発展は一気に押し寄せ、文化は時代の試練に直面している。長く受け継がれてきた「活版印刷」はすでに没落して久しく、大多数はデジタル化と現代の機械に取って代わられた。現在、台湾、ひいては全世界の繁体字の漢字文化圏で繁体字の活字を鋳造するための銅金型が最もそろっているのは「日星鋳字行」。
 
「日星鋳字行」は台北市太原路の路地にある。張介冠さんは当初、叔父の鉄工所で作業員をしていた。鉄工所での勤務が始まった日、張さんは叔父から、「今からお前の手で作った商品には賞賛しか許されない。客が戻ってきて文句を言うことなどあってはならない」と戒められたと振り返った。1979年には叔父の鉄工所をやめて家に戻り、父親の経営していた活字の鋳造業を手伝うようになった。父親が常に細心の注意を払い、全ての工程に全力であたる姿を目にした。1週間全く眠らずに仕事を続けることもあった。叔父と父親の戒めとお手本となる言動はいずれも張さんに大きな影響を与えた。
 
「日星鋳字行」には、「正楷」、「宋体」、「黒体」の字体の銅金型が世界で最もそろっている。さらに鋳造機械も数台所有する。中国大陸では早くから簡体字を使うようになっている。また、平版印刷が広がったことで、台湾の一部印刷所では鉛活字を部分的に保存してはいるものの、欠けている字があり完全な形ではない。このため「日星鋳字行」は鉛活字の生産を今なお続けている唯一の活字鋳造業者となった。しかし一方では銅金型が腐蝕する危機に直面している。金型を修理できる職人を育成できないからだ。
 
65歳の張介冠さんは、金型の修理をするには12歳から13歳の時に業界に入るのが最適で、その育成にも通常10年から15年はかかると説明する。しかし、職人として油がのっているのはわずか10年前後。その後は視力が衰えるため、経験に頼って修理を行うようになる。だが、今では12歳や13歳の弟子はありえず、大学を卒業してから学びに来ても、もう視力がこの仕事に耐えられなくなっているのだという。
 
「今年で65歳だ。大体あと65年修理し続ければ、全ての字を直すことが出来るだろう」と張さんはジョークを飛ばす。「日星鋳字行」は今年初め、「字体銅金型修復プロジェクト」を発起。クラウドファンディング(少額電子募集)で資金を集め、徐々に損壊していく銅金型に修理のチャンスを与えたいと考えた。張さんは、資金集めに協力している企業によれば、「理念型(寄付型)」のクラウドファンディングとしては募集金額が「破天荒」に高いとのことだが、それでも専門の技術スタッフを2人しか養成できない金額だと説明。文化の伝承を継続できるよう、今では長期的な資金集めを考えているという。
 
台湾の著名な作家の張大春氏も「字体銅金型修復プロジェクト」に賛同、作品を提供し、人の手による活版印刷で詩集『活葉集』を限定出版する。デラックス版とスタンダード版を同時に発売する計画で、読者たちは鉛活字の美しさを再確認することになるのである。
 
 

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