台湾南部初の国家レベルのパフォーマンス芸術センターとして建設が進められている衛武営国家芸術文化センター(高雄市鳳山区)は14日、コンサートホールに設置したパイプオルガンを初公開した。ドイツのヨハネス・クライス社に発注し、製造に1億2,000万台湾元(約4億3,700万日本円)をかけたもの。ストップ(音栓)数127、パイプ総数9,085本を誇るアジア最大級のパイプオルガンだ。
衛武営国家芸術文化センターは昨年10月31日に竣工。現在は竣工検査と改善工事を進めており、今年10月にグランドオープンを控える。総工費は107億台湾元(約388億日本円)。敷地面積は10ヘクタール近く、建築面積は約3ヘクタールになる。
そのうちコンサートホールは、客席をぶどう畑のように分割してステージを囲む「ヴィンヤード(ぶどう畑)形式」のもの。建築音響工学における高規格N15が採用されている。また、ホールの構造体をさらに1つの部屋で囲ったようになっており、四方に設置された防振スプリングや防振ゴムが外界の雑音を遮断する機能を果たしている。
世界で初めて「ヴィンヤード形式」を取り入れたのは、ドイツにあるベルリン・フィルハーモニーで、客席がステージをぐるりと取り囲むような設計になっている。客席の高さは一列ずつ異なっているため、観客はどの角度からもしっかりと音を聞くことができる。衛武営国家芸術文化センターのコンサートホールはさらに反響板が昇降式になっているため、楽団の編成規模に応じて反響板の高さを調整することができる。
パイプオルガンは、このコンサートホールの左右上方に設置されている。ドイツのヨハネス・クライス社が製造したもので、台湾南部・台南市にある私立台南進学院教会音楽系(=学科)の劉信宏副教授によると、「ドイツ企業にとって過去最大の発注案であり、アジアのコンサートホールでは最大級のもの」だという。
そのうちストップ(音栓)とは、開閉機能で音程を調整するもの。劉信宏副教授は、「ストップが127あるということは、つまり127人がパイプオルガンの中で音程の調整を行うようなものだ」と形容する。
なお、以前のパイプオルガンはすべて機械的な仕組みになっており、アシスタントがそばで操作の手伝いをする必要があった。しかし、衛武営国家芸術文化センターのパイプオルガンは半自動で、コンピュータ制御が可能となっている。
劉信宏副教授は、「衛武営国家芸術文化センターのパイプオルガンは各種の機能を備えており、クラシックから現代的な音楽まで幅広い演奏が可能だ。今後は教育課程にもこれを取り入れることもできる。学童たちをバックヤードに招待し、パイプオルガンの音の出る仕組みを見学させれば、より多くの人にパイプオルガンに親しんでもらえるだろう」と期待を寄せる。
また、衛武営国家芸術文化センターの簡文彬アートディレクターによると、段々畑のように広がる客席と、ステージを囲むような設計は、すべての観客がステージで繰り広げられる細かい動きを間近で感じることができるだけでなく、座席をエリアごとに分割する低い壁が、音の反射距離を短縮するため、より完全に、小さな音まで聞き取ることができる。このため「ここの音響効果は抜群だ。同じベートーベンの楽曲でも、ここで聞くと全く違って聞こえるだろう。今後、ここで演奏する楽団は大きなプレッシャーを感じるに違いない。ちょっとしたミスですら、はっきりと聞き取られてしまうから」と簡文彬アートディレクターは笑う。
なお、台湾で初めてパイプオルガンを設置したコンサートホールは、台湾北部・台北市中正区にある国家音楽庁(ナショナルコンサートホール)だ。オランダのフレントロップ社に発注したもので、幅14m、高さ9m、奥行き3m、そしてパイプ総数4,172本は、当時(1987年)アジア最大級を誇った。
また、衛武営国家芸術文化センター全体の設計はオランダの建築家、フランシーヌ・ ホウベン女史が請け負った。ガジュマルの木をイメージしたデザインで、建築物のラインはまるで音波の動き、あるいは海の波のようなカーブを描く。港湾都市である高雄市らしく、造船や港湾のイメージもデザインに取り入れている。
また、この土地の高い湿度や、大気中に多く含まれる塩分などの影響を考慮し、フランシーヌ・ ホウベン女史は鋼板に耐久性を高める表面処理を施した。さらに、高雄市の企業が得意とする造船技術を活用して、金属にカーブを持たせた。鋼板は一枚ずつカーブの角度が違う。緻密な計算に基づき、造船業者が100トン以上のハンマーを使って成形、溶接した。最後に、造船に見立てるため、わざと溶接線を残した。こうした絶妙な組み合わせで、高雄が持つ特色を表現している。また、建築物全体として窓や出入口が多く、見晴らしが良くて明るいのも特徴だ。一部はガラス張りになっており、芸術と日常生活を隔てる距離を感じさせない作りになっている。