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文化・社会

現代詩の先駆者で「詩の魔人」、洛夫さん死去

2018/03/20
洛夫さん(写真)は今月3日にも新刊『昨日之蛇』発表会に出席したばかり。出版社によれば、さらに遺稿となる未完の詩集もあるという。(遠景出版社提供、中央社)
詩人の洛夫(本名・莫洛夫)さんが19日、台北市内の病院で死去した。89歳。文化部(日本の文部科学省に類似)は同日声明を発表し、洛夫さんは台湾現代詩の先駆者であり、同部より総統に対し故人の業績を讃える褒章を授与するよう要請すると表明した。
 
洛夫さんは1928年生まれ。淡江大学英文学科を卒業後、中華民国海軍で編訳官(文書の翻訳や編集を担当)の任に就き、英文秘書や東呉大学講師、亜洲太平洋自由民主聯盟総会専門委員、中国の華僑大学、広西民族大学の客員教授を歴任。1954年に同じく詩人の張黙さんらと「創世紀」という詩のサークルを結成、同名の同人誌を出版し、「藍星」および「現代詩」と3大勢力を成し、60年にわたり現代詩発表の場を確立、華人現代詩壇の伝説的存在となった。
 
作品は詩を中心に、散文や評論、翻訳も手掛けた。詩作においては、初期の作風は実在主義やシュールレアリスムの啓蒙を受け、力強いイメージの反復、豊かな変化を見せる明快なリズムに、言葉遣いは奇妙で冷徹ですらあった。後に文体は一変、表現が魔術的であるとして、「詩魔(詩の魔人)」と呼ばれた。
 
洛夫さんの死に際し、国立政治大学台湾文学学科の元教授、陳芳明さんはソーシャルメディアを通じ、「悲しみが次から次へと押し寄せる。もしかすると死がたわわに実る季節なのかも知れない」と表明した。また、自身の散文作品『秋葉赴約而来』は、洛夫さんの詩作について、自分が若いころいかに誤解し、中年になりどのように理解に至ったかを振り返ったものだと回顧。さらに「あの魂から生まれる律動は今もこれほど鮮明に迫る。詩作を通じ、流浪と死をめぐる彼の深い理解がついに分かった」と記した。

作家の廖玉蕙さんはソーシャルメディアに洛夫さんの詩「回郷偶書」を転載し、「彼の詩に登場する『郷』がどこを指していようとも、この短い作品には人の胸にふつふつとこみ上げてくるものがある」と偲んだ。
 
1992年に偶然の引き合わせで、同人誌「創世紀」の最年少メンバーとなった東華大学華語文学学科主任の須文蔚教授は、世の人々は洛夫さんについて、実存主義やシュールレアリスム、詩魔、戦争詩人といった、奇特な面に目を向けがちだが、「古典的な叙情や離散についての想いこそ、彼の最も奥深いところにあるもの」との見解を示した。

洛夫さんの作品は英語、フランス語、日本語、韓国語、オランダ語、スウェーデン語などに翻訳され、2001年に出版された三千行の大作『漂木』はノーベル文学賞の候補となったほか、同年の台湾現代十大詩人の最高位に選ばれた。

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