台湾出身で米国籍の毒物学の権威、杜祖健(アンソニー・トゥー)氏が、日本で1995年に発生した地下鉄サリン事件などに関わった元オウム真理教幹部、中川智正死刑囚(55)と共同で作成した論文が発表された。
毒物学、生物兵器、化学兵器研究の権威として知られる杜氏は、松本、地下鉄両サリン事件などに関わった中川死刑囚と共同で英語の論文を執筆した。この論文は21日に日本法中毒学会(JAFT)が出版する学術誌「Forensic Toxicology」電子版に掲載された。
論文のタイトルは「Murders with VX: Aum Shinrikyo in Japan and the assassination of Kim Jong-Nam in Malaysia(VXガスを使った殺人:オウム真理教とマレーシアで起きた金正男氏暗殺に関する考察)」。
米コロラド州立大名誉教授の杜氏によると、2011年12月から日本政府の許可の下、研究の目的で中川死刑囚と面会を重ねたという。杜氏が3月13日に東京拘置所で14回目となる面会を終えた翌日、中川死刑囚を含む7人の死刑囚の移送が行われ、中川死刑囚は広島拘置所に移送され、4月11日には15回目の面会を果たした。
杜氏は、中川死刑囚が日本語と英語が話せる杜氏に対し、毎回の面会で非常に率直に話し、杜氏との面会を楽しみにしていたようだと述べた。昨年の秋に面会した際、中川死刑囚が自身の経験や知識を社会に役立てたいと杜氏に訴えたことから、英語での論文執筆に協力することになった。杜氏は、共同執筆した論文は著名な学術誌に掲載でき、中川死刑囚の希望をかなえるべく協力した作業も終わり、一区切りついたとした。
論文ではまず、1994年12月12日に日本・大阪でのオウム信者によるVXを一人の会社員に掛けて殺害した事件の考察から始まる。論文でこの事件は、世界で初めてVXによる中毒死事件と説明された。論文の後半には、昨年2月に北朝鮮の最高指導者・金正恩氏の異母兄、金正男氏がマレーシア・クアラルンプール国際空港で暗殺された事件についても触れている。
中川死刑囚と面会を重ねた中で杜氏は「なぜ学歴も高く、科学を学んだ優秀な人間が事件の首謀者である麻原彰晃死刑囚のような学歴もない者の話に耳を傾けたか」とたずねたという。これに対する中川死刑囚の答えは「自分でもわからない」とのことだった。杜氏は、同情はするがこれ以上殺人まで犯した中川死刑囚の力にはなれないとしている。
杜氏は、山梨県の旧上九一色村にあったオウム真理教の施設付近の土壌から、日本の警察がサリン分解物の検出を成功したきっかけを作った。この協力が讃えられ、日本政府から2009年に旭日中綬章が贈られた。
杜氏は、日本占領時代の1930年に台北で、台湾初の医学博士、杜聡明氏(1893-1986)の三男として生まれた。台北一中(現在の台北市立建国高級中学)を経て、1953年に国立台湾大学理学部を卒業後、米国に渡り化学、生物化学を学んだ。