2025/06/25

Taiwan Today

文化・社会

「国軍示範公墓」守る軍墓勤務士、国に代わって軍人の魂に最期の言葉

2018/08/24
「国軍示範公墓」の「忠霊殿」に遺灰が安置されるには、軍による「封龕」の儀式が必要。「軍墓勤務士」は国家を代表して、軍人の魂に最期の言葉をかけ、遺灰を納める厨子に封を施す。(聯合報より)
「国軍示範公墓(中華民国軍示範共同墓地)」では、3万近い墓穴や遺骨を納める厨子が赤い屋根のビル、「中華民国軍示範公墓管理組(部)」(以下、「国軍示範公墓管理組」)を取り囲んでいる。ここでは軍にしかいない「軍墓勤務士」20名あまりが日夜、任務にあたっている。「国軍示範公墓」は新北市汐止区五指山にあることから「五指山軍人公墓」とも呼ばれる。
 
中華民国軍における勤務形態は多種多様。軍に入って10年以上になると、生活・養老・治療・葬式のいずれも国がサポートし、行き先が用意されるようになる。国防部(日本の防衛省に相当)後備指揮部(後方支援指揮部)の「国軍示範公墓管理組」には20名あまりの「軍墓勤務士」が所属し、現役・退役軍人のための「軍墓」の管理を担当している。大量の墓が生み出す「陰気」(万物を衰滅させる気)に日夜向き合い、さらには死者と最期の別れをする遺族の悲しみも受け止めなければならない。また、墓碑などの更新作業にも立ち会って監督する必要がある。こうした「陰陽両隔」(霊界と人間界との境界)での勤務について、「国軍示範公墓管理組」の呉志麒組長(部長)は、「軍墓勤務士」を「修身に励み、徳を積む」気持ちで任務に向き合い、不安を克服するよう指導していると説明した。
 
死者の遺灰が五指山の「忠霊殿」に安置されるには、軍による「封龕」の儀式を経なければならない。「封龕」とは遺灰を納める廓子の扉を閉じることを言い、「軍墓勤務士」は国家を代表して、軍人の魂に最期の言葉をかけるのである。遺族が死者の遺灰を厨子の中に置いて角度を調整すると、敬礼をした「軍墓勤務士」は、「上官が国を愛し、忠節を守り、この土地と民のために尽くして下さいましたことに感謝します。本日、中華民国軍の『忠霊殿』でお眠りいただきますが、後代の人々が健康で平安に過ごせ、万事思い通りになるようお守り下さい。ここに謹んで国民を代表し、上官に敬意を表します」と述べる。「軍墓勤務士」が敬礼を終えて「封龕」を命じると、ただちに封が施される。封が解かれることは永久に無い。「陰陽両隔」を象徴するのである。
 
「国軍示範公墓」は台湾北部の新北市汐止区と萬里区、さらに台北市内湖区が接する場所にある。標高約699mで、前身は「五指山ゴルフ場」。山の南北に横たわる形で、北には基隆市、南には台北盆地、そして西には陽明山国家公園、東には連なる山々を望む。墓園の総面積は226haで、実際に開発されているのは77.8ha。9,236の墓穴が掘られている。「忠霊殿」は「天」、「玄」、「黄」、「地」の4つの階層に分かれ、2万9個の厨子(納骨スペース)が設けられている。五指山の「国軍示範公墓」は広大だが、日が暮れると「軍墓勤務士」がグループで巡回警備を行う。墓園に怪しい者がいないこと、異状の無いことを確認してから墓園の扉を閉じるのである。
 
台湾では、旧暦の7月は霊界の扉が開いて死者の霊魂が人間界に戻ってくる「鬼月」とされ、霊に取りつかれると怖がる人も少なくない。今年は8月11日から9月9日までで、今はまさに「鬼月」である。「国軍示範公墓」では特別な対応がされているのだろうか。関係者によると、「軍墓勤務士」たちは毎日「忠霊殿」に線香をあげ、掃除をし、土葬エリアを巡視している他、毎月旧暦の1日と15日には「国軍示範公墓」にある「土地公」(その土地を守る神=お地蔵様に類似)の廟でお詣りをすることになっている。これは普段からのことで、旧暦の7月も他の月と同じく平安が保たれ、特別なことは無いという。
 
「国軍示範公墓管理組」の呉組長によれば、今年4月に中国大陸からやってきて慈湖(台湾北部・桃園市)を観光していた旅行者1人が、早くに中国大陸から台湾に渡って来た母親の墓の修繕を申請。その後、台湾に住む友人を通じて代金も振り込んできたため、「国軍示範公墓管理組」が年間契約を結んでいる業者が墓穴の修繕を行った。この中国大陸の人は先ごろ個人旅行で再び来台、母親の墓参りのため「国軍示範公墓」を訪れ、母親の墓碑に抱きついて泣きじゃくった。台湾で暮らしていた父母は生前、中国大陸の親族の世話を見ようと心を砕いていたという。この人は、「国軍示範公墓管理組」による行き届いた維持管理措置を知り、父母が五指山に葬られていることをありがたく感じたと話し、「中華民国万歳」と叫んで見せた。
 
夜になった五指山の上では、「国軍示範公墓管理組」の事務所だけが明るい光を放っている。大きなガラス窓の中には、兵士たちがトレーニングに励む姿が見える。五指山において「陰陽」の交わるこの場所で、生きる者と死者はどちらも平安を得ているのである。(聯合報より)
 
 

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