動画サイト「YouTube」に自分で制作した動画を継続的に公開する人物をYouTuber(ユーチューバー)と呼ぶ。ハンドルネーム魚乾(Annie)さんは、ほかのYouTuberに比べると化粧っ気がなく、どこにでもいる女の子といった感じの女性だが、YouTubeでのチャンネル登録者数は100万人を超える。ソロで活躍する女性YouTuberとしては、台湾で初めてチャンネル登録者数100万人突破の快挙を成し遂げた人物である。魚乾さんが制作する動画の内容は多岐に及んでいる。グルメ、ペット、コスメなどさまざまだ。
魚乾さんに対するネットユーザーの評価は厳しい。「八婆(おしゃべり女)」、「醜女(ブス)」、「胖子(デブ)」―しかし、こうした汚い言葉も、彼女は一切気にしない。それどころか「もともと、誰かを楽しませようとしてやっていること。もし彼らが私をののしることでスッキリするのであれば、私にとっては同じこと」とあっけらかんと話す。
一人っ子だったため、小さいときからインターネットやテレビが友達だった。「だから、みんながインターネットで面白いものを見たいと思う気持ちが私には分かるんです」と自信ありげに話す。一緒に遊んでくれる兄弟姉妹がいない上に、同年代の友達とどうやって仲良くするかも分からなかったという。
明るい性格の彼女だが、中学のときはクラスメートからいじめを受けていた。机や椅子がひっくり返され、教科書は水浸しにされた。自分の何が悪かったのか、全く思い当たるふしはなかった。
「ある日、意味もなく嫌われたんです。友達だと思っていた人が、グループ分けのときも、トイレに行くときも、私を誘わなくなった。そのときは、これがいじめだとは思いませんでした。ただ、彼女たちとは仲良くできなくなったのだと、自分で解釈しました」―魚乾さんは当時をそう振り返る。
「当時は誰も私を助けようとしませんでした。誰もが、次のターゲットになるのを恐れていたのです。私は先生にも両親にもこのことを話しませんでした。そのときは、あまり気にしないようにしていました。そして次の学期には、彼らは別の人をいじめの対象にしていました」と魚乾さんは話す。
魚乾さんにとって中学時代の記憶はあいまいだ。明るく振る舞えるようになったのは高校に入学してからだった。絵画、スポーツ競技、朗読、漢字、どんなコンクールや試合にも参加した。賞状の数が一枚一枚増えていった。軽音楽部に入り、ドラムを担当した。「あのときの私の気持ちは、できることは何でもしようという感じでした。大学受験は推薦枠に挑戦し、賞状をまとめた一冊のファイルを提出しました。それで無事、合格できました」と話す。魚乾さんは決して、中学時代に抱えた負の感情に溺れることなく、その経験をバネにして這い上がったのだ。
現在は人気YouTuberとして活躍する魚乾さんだが、実は抜群の歌唱力を持つ。台湾の人気男性シンガーソングライター、陳零九さんとデュエットソング『心有餘悸』をリリースしたことがある。また、日頃からさまざまな曲をカバーしてネットで動画を公開したりしている。動画再生回数は延べ100万回を超える。YouTuberという枠を超えて、近くEP(Extended Play、略称EPとはフルアルバムより短く、シングルより長いCDのこと)をリリースする準備も進めている。
魚乾さんのYouTuberとしてのデビューは2012年で、いまではYouTuberの先駆者とも言える存在だ。ファンとの関わりを大切にしており、その2年後にはゲーム実況や自作動画のブームにも乗った。インターネットの世界で有名なゲーム実況チーム「紅石口袋(RedStone Poke)」の団長を4年間務めており、サンドボックスゲーム『Minecraft』(マインクラフト)のゲーム競技「辺境奪旗戦」を主催したこともある。
そんな人気YouTuberの魚乾さんには、人々に伝えたいことがあるという。「いじめられたと思ったら、角度を変えて考えてみて欲しい。その人たちはきっと、あなたにとって相性が合わない人たちなのです。当時は自分がみじめだとは思いませんでした。ただ、考え方を変えただけです」。
魚乾さんのYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCpgt8SEyAy5tbr9BzVK8Lsg