2025/07/26

Taiwan Today

文化・社会

第42回金鼎奨、九歌出版社の陳素芳編集長に特別貢献賞

2018/10/05
出版業界を対象とし、優れた出版社、出版関係者、創作者などに贈る第42回「金鼎奨」の授賞式が4日に行われた。今年の「特別貢献賞」は、九歌出版社(台湾北部・台北市)の編集長を務める陳素芳さん(中央)に贈られた。写真左は行政院の頼清徳院長、右は文化部の鄭麗君部長。(中央社)
出版業界を対象とし、優れた出版社、出版関係者、創作者などに贈る第42回「金鼎奨(Golden Tripod Awards)」の授賞式が4日に行われた。文化部(日本の文部科学省に類似)が主催するもので、出版業界が「文化の伝播」という機能を発揮するよう願って設けられたもの。歴代の受賞作品はいずれも、教員や保護者の多くにとって推薦図書を選択する際の重要な指標となっている。
 
今年の「金鼎奨」には合計1,257点の作品がエントリーした。その結果、「雑誌」、「図書」、「デジタル出版」、「政府出版」の4部門、合計20項目の賞を29作品が受賞したほか、35点の作品が「優良出版品」の推薦を受けた。
 
行政院(内閣)の頼清徳院長(首相)は授賞式で、「金鼎」の二文字は「金言九鼎、文化薪伝」という言葉に由来すると説明し、「金鼎奨」は映画界におけるアカデミー賞と同等の価値を持つと強調した。また、「台湾にとって出版や創作の自由は非常に貴重な資産だ。政府は国民と共に、このような自由を守っていきたいと考えている。行政院はこれからも、出版産業の発展を支援する」と約束した。
 
なお、今年の「金鼎奨」は、九歌出版社(台湾北部・台北市)の編集長を務める陳素芳さんに「特別貢献賞」が与えられた。陳素芳さんは1982年に同社に入社し、現在まで36年間にわたって出版業界で働いてきた。同社が毎年出版する散文、小説、童話分野の傑作選集に長く携わってきた。編集を担当した作家は五四運動時代の梁実秋(1903-1987年)から、戒厳令解除後の台湾(1980年代、1990年代)に生まれた若い世代、それに海外の華文創作者(中国語で執筆を行う作家)まで幅広い。
 
陳素芳さんは授賞式の挨拶で、「私はただの編集者です。このような賞をもらえるなど思ったこともありませんでした。舞台裏に身を潜めているだけの裏方の人間が、こうして表舞台に出て賞をもらえるなんて、身に余る光栄でただただ驚き、気が気ではない気持ちです」と率直な感想を述べた。
 
陳素芳さんはまた、この賞をもらって最初に考えたのが両親と、それから九歌出版社の創設者、蔡文甫氏のことだったと述べた。「入社したばかりの私は、文学の編集のことについて何も知りませんでした。蔡文甫氏は私にとって社長であり、師でもありました」と語った。そして、九歌出版社の編集部には6年ものあいだ、自分と蔡文甫氏の2人しかいなかった時代があったことを明らかにした。
 
陳素芳さんが最初に担当したのは1981年度の散文集だった。これは、台湾にとって最初の年度別散文集だった。中華圏では台湾のみが、過去半世紀にわたって年度別の傑作選集を出版し続け、台湾のその時代の様子を反映している。この作品は、当時の編纂番号で「九歌文庫101号」だった。現在、同社の編纂番号は「九歌文庫1294号」に達している。
 
陳素芳さんにとって九歌出版社は最初の就職先だった。なぜ編集という職業にずっとこだわり続けることが出来たのだろうか。「夢を追い続ける人がいるとして、その人の夢に寄り添うことが出来たら、それは素晴らしいことではありませんか?」と陳素芳さんは言う。自分が忘れてしまった理想を、他人の作品に見出すことができるのが編集という仕事の魅力なのだという。何事もすぐに忘れてしまいがちな時代だからこそ、「普段活字にあまり触れない人たちに、本を読むよう勧めたい。本を読めば、自分にも文章を書く力があることが分かるからだ」と語る。
 
陳素芳さんは1980年代の文学の「黄金時代」から、現在の低迷期までをすべて経験してきた。「黄金時代」だったころの出版業界は、大量発行、大量販売で、出版のコストは低く、多くの書店が並ぶ書店街ができるほどだった。しかし現在は、発行部数も売り上げも少ない。出版のコストは非常に高く、書店街も消えた。そんな時代だが、陳素芳さんは「現状を受け入れ、それに対処するが、諦めてはいけない」と心に決めたのだという。さまざまな挫折に直面するたびに、「諦めるか?妥協するか?」と自分に問いかけ続けてきた。妥協できないとき、「それこそが人生において、もっともこだわりを持つ核心です。私にとって文学こそが、その核心でした」と語る。
 
陳素芳さんにとっては、どの本も自分の夢だった。だから、自分の夢をかなえてくれた九歌出版社の作家すべてに感謝している。「作家たちが生み出す活字の世界で、私は内在の世界を作っている。自分の信念を貫き、楽しく仕事が出来ました」と語る陳素芳さん。だからこそ、この土地に住む創作者たちに伝えたいのだという。―「書くことを諦めないでほしい。台湾文学史の次のページは、あなたを待っているから」。
 

ランキング

新着