2025/05/07

Taiwan Today

文化・社会

宛先不明の手紙を届けた郵便局員、龍応台さん「これぞ台湾精神」

2018/11/30
元文化部長の龍応台さんは、宛先に「東港渓の川沿い」、「早朝5時」、「野菜市場」、「麵屋」などと書かれた手紙を受け取った。手紙は中国・安徽省から送られてきたもの。龍応台さんは、送り届けてくれた郵便局員の黄加雄さんの行動を「これぞ本物の台湾精神」だと称えている。写真右下は受取票で、左下は受取票の裏に書かれたメモと印鑑。(龍応台さんのフェイスブックのスクリーンショット)
文化部(日本の文部科学省に類似)の部長(大臣)を辞めたあと、台湾南部・屏東県に移住した作家の龍応台さんのもとに11月上旬、中国の安徽省から送られてきた一通の手紙が届いた。封筒の宛先には、中国で使う簡体字で「屏東県潮州村 東港渓の川沿い 野菜市場にある麵屋の近く」などと書かれていた。宛先ともいえない内容にも関わらず、遠い海の向こうからやってきたこの手紙は龍応台さんの手元に届けられた。龍応台さんが調べたところ、手紙を届けてくれたのは潮州郵便局の職員、黄加雄さん(60歳)であることが分かった。そこにあったのは、郵便物は必ず届けるという郵便局員としてのプロ意識だった。龍応台さんは「これぞ本物の台湾精神」だと称えている。
 
黄加雄さんは、郵便局に勤めて40年になるベテラン職員。そのうち潮州郵便局での勤務は35年になる。現在は郵便物の管理や郵便物に関するさまざまな問題に対応する「稽査」という役職についている。ある日、宛先がはっきりしない一通の郵便物を発見した。そこには「東港渓の川沿い」、「野菜市場」、「麵屋」などいくつかのキーワードが書かれていただけだったが、宛名には「龍応台」と書かれてあった。「龍応台と言ったら、元文化部長のあの人ではないか?」―黄加雄さんはピンときた。
 
龍応台さんが屏東県潮州に引っ越してきていることは耳にしていた。しかし、その正確な住所までは知らなかった。とはいえ黄加雄さんも地元の人間だ。友人などに聞いてまわり、ついに龍応台さんの兄と連絡を取ることができた。こうして、なんとか郵便局員としての任務を果たした。
 
黄加雄さんによると、こういう手紙が全くない日もあれば、一日に何通も処理しなければならないときもある。しかし、それも自分も仕事のうちだと思っている。受け取った人たちが、自分たちの苦労を覚えているかどうかなど考えたこともない。だから、その数日後、龍応台さんが友人を介してブンタン一箱を送ってきたときはビックリした。黄加雄さんのほうがすっかり恐縮してしまい、何度もお礼を言った。黄加雄さんにとって忘れがたい出来事になった。
 
龍応台さんはその後、自身のフェイスブックにこのいきさつを書き込んだ。手紙の消印は10月19日。中国の安徽省から出されたものだった。一緒に掲載された写真によると、宛先には「東港渓の川沿い」、「早朝5時」、「野菜市場」、「麵屋」、などのキーワードと、それに「宛名の人のことは誰かに聞いてください。付近の住民なら知っているはずです」、「ありがとうございます。すみません」などと書かれていた。
 
手紙には台湾の郵便局が貼りつけた受取証が付いており、裏を見ると龍応台さんの自宅の住所と「ここに届けてください」の文字が書かれ、「稽査943」の印鑑が押されていた。「稽査」は郵便局の役職で、943は役職番号のこと。龍応台さんはこの「稽査943」を頼りに、黄加雄さんを探し出した。
 
龍応台さんによると、自分は確かに午前5時ごろ東港渓の川沿いを散歩することもあるが、東港渓は全長44キロメートルもある河川だ。たまに潮州の市場にある麵屋で朝食をとることもあるが、潮州にこうした市場はいくつもあるし、どの市場にもいくつも「麵屋」はあるはずだ。「屏東県潮州の東港渓の川沿い」宛てに出された、そんな行くあての分からない手紙を、安徽省の郵便局はきちんと台湾へ向けて発送した。それはもしかしたら北京や上海、あるいは広州などの大都市を経由して、台北あるいは高雄に届けられ、そこから屏東県潮州へ向かったのかもしれない。龍応台さんは、台湾海峡両岸の郵便局員の「自分がすべき仕事を黙々とする姿」を想像しながら、「時代がどれだけ複雑になろうとも、人々の心が単純であることは、依然可能なことなのかもしれない」と投稿を締めくくっている。なお、手紙の内容については明らかにしていない。
 

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