台湾では、中国語の発音表記として注音符号(注音字母ともいう)が使われている。キーボードに並ぶ「ㄅㄆㄇㄈ(それぞれピンイン表記のb、p、m、fに相当)」のキーを打つと、発音表記が漢字に変換されていく様子は、もはや私たちにとって見慣れた光景になっている。注音符号の歴史は、清朝末期に提唱された「漢語発音教育革命」に遡る。長年にわたる議論の結果、いまから100年前の1918年、当時の教育部(中華民国政府は当時まだ中国大陸にあった)によって注音符号が正式に公表された。注音符号を学ぶことはその後、漢字の書き方やその発音を学ぶのに必要な過程となった。37個の符号はいま、発音を表記するためのものとしてだけでなく、若者のコミュニケーションに欠かせない暗号にもなっている。
台北市文化局(台湾北部)は2004年以降、「正体字(台湾で使用される漢字のこと。いわゆる繁体字)」の推進を目的とした「漢字文化節」を開催している。さまざまな分野とコラボしたイベントで、モダンアートの展示、漢字にまつわるコンテスト、学校での活動などの形式で、漢字の発展の歴史やその実用価値などを見直してきた。2014年以降はイベント名を「漢字文化推広系列活動(=漢字文化の推進シリーズイベント)」と改め、形式や空間にこだわらない漢字文化の推進を進めている。今年は漢字文化をテーマにした『漢字的華麗転身(=漢字の華麗なる転身)』を出版。学者・専門家、芸術家や文化人など31名が、さまざまな視点から漢字の発展を紐解くもので、中華民国政府が台湾にやって来た1949年より前と、それ以降から現在に至るまでの漢字の変化、それに近現代における漢字の生活様式への影響の記録などが掲載され、読者がより漢字文化に親しめるようになっている。
台北市は20日、こうしたイベントの一環として、台北メトロ(MRT)紅線の大安森林公園駅構内にある陽光大庁(=ホール)に、注音符号の誕生100周年を記念する公共芸術(パブリックアート)を設置した。台湾のアーティストチームである豪華朗機工(LUXURYLOGICO)とPIMIYAがプロデュースした「ㄉㄅㄉㄌㄅㄌ」と題する作品だ。通常は紙の上に書かれる注音符号を視覚化したもので、注音符合が書かれた色とりどりのクッションが並べられている。クッションにはセンサーとスピーカーが内蔵されており、それぞれその注音符号の音が出るようになっている。好きなように遊んでもいいし、クッションを背もたれにして休んでもいい。注音符号を組み合わせて文章を作るなどして、身体を使って注音符号を楽しむことができる。楽しみながら注音符号の誕生100周年を祝って欲しいとの願いを込めた。
作品名の「ㄉㄅㄉㄌㄅㄌ(ピンイン表記ではd b d l b lに相当)」は、敢えて注音符号にした。これは、「懂不懂瞭不瞭(Dong bu dong liao bu liao=分かったか、理解できたか?)」、「等不到礼拝六(Deng bu dao li bai liu=土曜日が待ち遠しい)」、「鬥不倒老闆啦(Dao bu dao lao ban la=(社長には勝てっこないよ)」などの発音の頭文字に相当し、見る人によってほかにもさまざまな言葉に置き換えることができる。若者がインターネットの書き込みなどで、こうした略語を使うことが多い。タイトルに想像の余地を与え、参加する人たちがこの発音に当てはまるさまざまな文章を考えてくれればと考えている。大勢の人々が利用する駅という空間を通して、人々に漢字の面白さを知ってもらい、漢字が私たちの生活に浸透していることを実感してもらうのも狙いの一つだ。
展示は2019年2月22日まで。この期間は毎週土曜と日曜の午後(但し、1月19日は除く)、台北市街頭芸人協会(=ストリートパフォーマンス協会)がマジックショーやバルーンパフォーマンスを行う。ステージでは音楽やダンスなどのパフォーマンスも繰り広げられる。詳細はフェイスブックページ「漢字互動装置ㄉㄅㄉㄌㄅㄌ」を参照のこと。