アジア初の、病気に罹った人の自主権を保障するための特別法である「病人自主権利法」は2015年12月の立法院(国会)における可決・成立を経て制定されたもので、3年間の準備期間を経て6日に正式に施行された。法律の重点は、完全な行為能力を有する希望者が、「医療の事前指示書(AD:アドバンス・ディレクティブ)に関する相談(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」を通じて、あらかじめADを作成し、以下の5つのケースのどれかになった場合に延命治療を受けるかどうかを決めておくこと。
5つのケースとは、「安寧緩和医療条例(ホスピス緩和医療条例)」で定められる「末期病人(末期患者)」、外傷により6カ月以上意識が回復しない、もしくは外傷以外で3ケ月以上意識が回復しないなどの「不可逆転昏迷(不可逆性昏睡)」、外傷による「植物状態」が6カ月以上続く、もしくは外傷以外での「植物状態」が3カ月以上続くなどの「永久植物人状態(遷延性意識障害)」、「臨床的認知症尺度表(Clinical Dementia Rating)」で3点以上、もしくは「生活機能評価(Functional Assessment Staging Test)」で7点以上の「極重度失智(極めて重篤な認知症)」、そして政府が公示する深刻な疾病。
従来、医師が患者の家族にだけ病状を伝えるのは法的に可能だった。しかし、「病人自主権利法」では、患者自身が病状、治療の選択肢、並びに効果とリスクなどを知る権利、選択する権利、決定する権利を持つことを明記している。過去には患者の配偶者や家族の意見が、患者本人の意思より力を持つこともあったが、「病人自主権利法」は、患者自身の決定に基づいて医療機関もしくは医師がとる行動を患者の関係者が妨げることを認めない。
ADの作成は、希望者が満20歳、もしくは20歳未満ながら合法的に結婚している人なら可能。5つのケースとなった場合の生命維持治療や人工栄養投与についてそれぞれ「受け入れる」もしくは「拒否する」を選択する。また、意識不明、もしくは意思の表明が出来なくなった場合には「医療委任代理人」が患者に代わって決定する、あるいは一定期間治療を受けてから治療を停止するといった選択を行う。「医療委任代理人(医療代理人)」は、患者本人の意思決定能力が低下した場合などに、「本人以外で医療に関する意思決定ができる者」を指す。
衛生福利部(日本の厚労省に類似)が発表しているところによると、台湾ではすでに77カ所の病院でACPサービスを提供している。ACPを行う際には、希望者本人の他、完全な行為能力を持つ人が2人以上立ち会う必要がある。立会人には二親等までの親族が少なくとも1人と、医療代理人がいなければならない。
「病人自主権利法施行細則」によれば、現場での医療行為の決定に関する同意は「患者自身の同意を優先し、関係者の同意はそれを補う」ことになっている。患者が突然、医療に関する決定を変更した場合は、その時の新たな決定を優先する。しかし、事前に「生命維持治療を受け入れる」と表明していながら突然患者がそれを拒否した場合は、生命にかかわるケースであることから、まず患者にADの変更をしてもらってから医師はそれに従うことになっている。
同法律にはまた、患者のADに従わない医療機関や医師はその患者の転院に協力し、患者自身が「天寿を全うする」権利を保障せねばならないと定めている。