台湾南部・高雄市の国立中山大学生物科学系(=生物化学科)に所属する李哲欣副教授(41歳)は昨年11月、科技部(日本の文部科学省に類似)から「呉大猷先生紀念奨(=賞)」を授与された。李副教授は、サルモネラ菌で悪性腫瘍を治療するという画期的な研究を行っている。
李副教授の専門は微生物学、免疫学、腫瘍生物学。腫瘍免疫と細菌による抗腫瘍効果のメカニズムに興味を寄せている。博士課程に在籍していた数年前、「最も簡単でスピーディーな方法」で研究成果を挙げたいと考え抜いた結果、ひょんなことから細菌療法を発見した。
「当時は指導教授ですら、細菌に抗がん作用があるとは信じていませんでした。そんな考えは荒唐無稽だと考えていました」と李副教授は振り返る。その後、実験によってこの仮説を実証。毒性を弱めたサルモネラ菌が、動物の体内に備わっている免疫力を刺激し、がんの治療効果を高めることを発見した。
この研究結果は『Human Genes Therapy』など著名な海外の機関誌に何度も発表され、昨年11月には科技部より「呉大猷先生紀念奨」を授与された。李副教授は、「サルモネラ菌の遺伝子配列は明確で、ワクチン株の培養が容易だ。研究の結果、大腸がん、乳がん、肝臓がんなどのがん細胞への抑制効果は50%に達した。原発性肝臓がんを発症したラットは約30日で死んだが、毒性を弱めたサルモネラ菌を注射したラットは60~70日生きることが出来た。また、抗がん剤投与量を抑えた低用量化学療法を併用すると、より効果が高まることが分かっている」と話している。
現時点ではまだ人体実験を行っていないが、医療機関や医師らに協力を求めている最中で、いずれ臨床医学に持ち込みたいと考えている。人体への応用が可能になれば、現在のがん治療に比べて治療コストを大幅に引き下げられるため、貧困患者にとっては朗報となる。