交通部観光局(日本の観光庁に相当)の統計によると、2018年に台湾を訪れた外国人渡航者は過去最多の延べ1,106万人に達した。台湾の政府が推進する「新南向政策(=東南アジア、南アジア、オーストラリア、ニュージーランドを含めた合計18カ国との関係強化を目指す政策)」の効果もあり、対象国18カ国からの渡航者も過去最多の延べ259万人に達した。その上位6か国は、マレーシア、ベトナム、シンガポール、フィリピン、タイ、インドネシアだった。台湾と「新南向政策」対象国は、観光やビジネスによる人的往来が活発化するにつれ、文化的なつながりもより緊密になっている。
このほど聯経出版社は、マレーシア出身の華僑である廖文輝さんの編著『馬来西亜:多元共生的赤道国度(Malaysia: An Equatorial Nation of Co-existing Multiplicities、
「マレーシア:多文化が共存する赤道の国」)』を台湾で出版した。地理的要素を点に、時間的要素を線にして、マレーシアの社会、経済、政治、文化などの側面を結び、マレー半島の文化とエスニシティの発展の長い歴史を記録したものだ。マレーシア出身の華僑が中国語で書いたマレーシア史であり、半世紀近くに渡って欠けていた華人のマレーシア史観の空白を埋めるものとなる。
廖文輝さんは、国立台湾大学歴史系(=歴史学科)を卒業後、マレーシアのマラヤ大学で中国文学の修士号を、中国のアモイ大学で歴史学の博士号を取得し、現在はマレーシアにある新紀元大学学院(New Era University College)中文系(=中国文学学科)で副教授を務める。
廖文輝さんによると、この本の内容は主に各分野の学術研究の成果を整理し、一冊の本にしたもの。そのうち約3分の1は、廖文輝さん自身の長年の研究の成果を文字にまとめたもの。特に全体の構成と内容の選択は、廖文輝さんの長年の熟考の成果だという。
聯経出版社の胡金倫編集長によると、これまでマレーシアに関する歴史書や著書、論述などは、多くが多数を占めるマレー人とイスラム教文化を中心としたもので、中華系、インド系、先住民族の文化や歴史などは割愛されることが多かった。
廖文輝さんは各方面の史料を集め、各エスニシティの文化とその歴史の両面にアプローチした通史を編纂した。この分野では包括的且つ完全な歴史書と言うことができる。台湾の読者は、マレーシアにおける華人の歴史や地位の変遷をより理解することができる。各エスニシティの融合の史実を、ありのままにバランス良くまとめた一冊だ。
この本の担当編集で国立台湾大学中文系の高嘉謙副教授は、「21世紀は近代中国語がアジア地域における主流且つ優位性を持った言語となっている。中国大陸と比べても、台湾は近代中国語が最も集中的に使用されている地域だ。台湾からシンガポールやマレーシア地域への中国語の伝播にはその歴史的文脈がある。1950年代以降、台湾の高等教育機関が海外華僑や外国人留学生の誘致に力を入れるようになり、長期にわたって東南アジア出身の華僑や外国人留学生を受け入れてきた。大学部から修士課程、博士課程まで、台湾留学経験を持つ人は非常に多い。台湾はこうして、シンガポールとマレーシアに無数の文化の『タネ』を播いてきた。そして、これらの国々ではさまざまな側面と意義を持つ『華語(=世界の華人社会で使用される標準中国語のこと)』や想像が生み出された。このため、我々が東南アジア各地で使われる『華語』や文化、文学などに関心を寄せ、同時に東南アジア現地に関することを『華語』という媒体を使って翻訳し、そして『華語』の世界における南方への想像と接触を作り上げることは非常に重要且つ必要なことなのだ」と話す。
『馬来西亜:多元共生的赤道国度』は2017年、マレーシアで出版後、大きな反響を呼んだ。初版は出版からわずか2か月後に完売し、第2刷新が発行されたが、これもあっという間に完売した。2018年1月、香港の雑誌『亜洲週刊(Yazhou Zhoukan)』が発表する2017年度「中文十大好書(=中国語の良書10冊)」の非小説類に選ばれている。