2025/06/13

Taiwan Today

文化・社会

介護離職を減らすヘルパーのマッチングアプリ「優照護」

2019/07/12
アプリ「優照護」は、両親の介護と子育ての板挟みになっている「サンドイッチ世代」をターゲットとした、第三者によるヘルパーマッチング・プラットフォームだ。長期にわたる介護生活においても、介護離職という選択をしなくてもいいようにするのが狙いだ。写真は優れたヘルパーを表彰する「照護之星表揚大会」の様子。(「優照護」提供、聯合報)

衛生福利部(日本の厚生労働省に類似)の統計によると、台湾では65歳以上の高齢者のうち、「要介護者」ではない人の比率が83.65%に達する。しかし、「要介護者」ではなくとも、短時間のケアが必要であったり、生活の各方面でサポートが必要だったりすることもある。また、そうした「要介護者」ではない高齢者と暮らす家族も、たまには休息が必要だったり、仕事との両立を可能にするサポートが必要だったりするものだ。

「優照護」は、両親の介護と子育ての板挟みになっている「サンドイッチ世代」をターゲットとした、台湾初の第三者によるヘルパーマッチング・アプリだ。アプリを使ってヘルパーを予約するもので、ヘルパーを必要とする利用者は、さまざまな時間帯、多様なサービスを選択することができる。長期にわたる介護生活においても、介護離職という選択をしなくてもいいようにするのが狙いだ。

このアプリを開発した会社の劉詩瀚総経理(=社長)は現在33歳。同社の共同創業者の一人である。「これまでは、ヘルパーを頼むと言えば、友達のまた友達に聞いてもらうなどして、くちづてで探すのが一般的だった。あるいは人材派遣会社に依頼することもあった。しかし、実際にヘルパーさんに来てもらっても、その人がどういう人なのか、過去に何をしてきた人なのか、どういう経験を持っているのかなど、何も知らないことが多い」と、劉総経理は祖母のためにヘルパーを探していた経験上、そう語る。

「情報が不透明」というのは、ヘルパーを探すときに最も頭を悩ませることだ。劉総経理は友人と話す中で、そういう考えを持っているのが自分一人でないことに気が付いた。「台湾はいま、高齢化社会に向かっている。同じような需要は、きっと増え続けるはずだ」―そう思った劉総経理は、エンジニアとしての腕前を活かし、もう1人の共同創業者となる陳宏益さんに声を掛けた。陳さんはECサイト運営の経験を持っていた。こうして二人は1年かけてアプリ「優照護」を開発した。2016年7月のことだった。

このアプリの操作画面は見やすく、動線もはっきりしていた。これは、「情報が不透明」という従来の問題をクリアするものだった。まず、アカウント登録をして、必要な情報を入力する。そして地域と時間を選択すると、条件に合致したヘルパーの関連情報を見ることが出来る。予約が完了すれば、双方はアプリを通して連絡を取ることができる。そうして、介護が必要な高齢者のニーズなどについて話し合う。早ければ翌日には、そのヘルパーが自宅にやってきて高齢者の世話などをしてくれる。最短3時間からの利用となる。劉総経理は「事前のコミュニケーションが最も重要です。相手への期待が一致してこそ、互いが感じるギャップを減らすことが出来るからです」と強調する。

「市場メカニズム」を導入しているのも「優照護」の特徴だ。「優照護」は評価制度を採り入れ、アプリにヘルパーの自己紹介、経歴、利用者からの評価、履歴などを掲載することができる。ヘルパーによる個人のブランディングを奨励しているのである。また、優れたヘルパーを表彰する「照護之星表揚大会」も毎年開催している。

現在、登録しているヘルパーは約1000人に上る。いずれも(1)大学で介護について学んだ経験を持つ、(2)90-120時間の育成講座を修了したか、あるいは国家試験の資格を持つ、(3)「優照護」の個人面談に合格している―の3つの要件を満たしたヘルパーだ。その上で、犯罪経歴証明書(いわゆる「無犯罪証明書」)と健康診断結果の提出を義務付けている。

一般のヘルパーのほか、理学療法士、作業療法士、看護士、アートセラピストなどさまざまな資格を持ったプロの人材もいる。サービスを提供している地域は台北、新北、桃園、台中、台南、高雄の6直轄市のほか、基隆、新竹、彰化などにも及ぶ。

また、ヘルパーと利用者(登録会員)はいずれも「優照護」と契約を交わすシステムになっている。これにより、法的拘束力と保障を受けることができる。また、ヘルパーと「優照護」、利用者と「優照護」が結ぶ契約のほかに、毎回の利用ごとにヘルパーと利用者の間でも、1回切りのサービス契約を結ぶことになっている。契約には双方の権利と義務が明確に記載されており、ヘルパーと利用者の間でトラブルが発生した場合、この契約に基づき、「優照護」が事実を調査し、処遇を決める権利を持つとしている。

ヘルパーは自分の都合のいい時間と地域で仕事の依頼を受けることができる。副業でも本業でも良い。ヘルパーにとって「優照護」に登録するメリットは大きく3つある。1つは利用料金がクレジットカード決済であるということ。明確に報酬を受け取れるという安全性がある。2つめは、自分の収入増加につながること。「優照護」に登録するヘルパーのうち、最も稼ぐ人は1か月の収入が10万台湾元(約35万日本円)にもなるという。最後に、アプリの操作画面が利用者に優しく、管理しやすいとうこと。「おばあさんでも見てわかる」と評判だ。

一方、「優照護」の利用者を見てみると、「要介護者」の家族である35~50歳の女性が全体の60%以上を占めている。アプリを使うには一定の技術上のハードルがあるためで、簡単に言えば「インターネットやスマホでさまざまなことを解決するのに慣れている」ユーザーであり、自然とこの年齢の使用者にターゲットが絞られていることになる。

シニアケアの巨大な市場において、「優照護」は明確にターゲットを定めている。それは、たまの利用で、利用時間は短く、「要介護者」への付き添いをメインとした短期ヘルパーを探しており、そのためにお金を出すことを厭わないという利用者である。これは、政府が推進する「長期介護2.0」政策のサービスとは一線を画すものだ。政府のサービスは、事前の申請と評価が必要で、半年の利用を単位とした長期介護だ。劉総経理は「自分たちのサービスがあることで、政府は長期介護に必要な資源を、それを最も必要とする、社会的に弱い立場にある人々に投じることができる」と、「優照護」の違いを指摘する。

「優照護」がヘルパーと、それを必要とする家族をうまくマッチングしている理由には、使い勝手のいい操作画面のほか、合理的な利用料金が挙げられる。劉総経理は「定価というのは芸術と同じだ。高すぎると利用者が不満だし、低すぎるとヘルパーが不満を持つ。だから我々は、市場の相場の中間の料金に設定することにした」と話す。なお、「優照護」のほうは、ヘルパーの収入から平均20%を「情報サービス料」として徴収し、これを収益としている。

徐嘉檣副総経理によると、「私たちはどんな隙間も埋めることが出来る」と胸を張る。例えば今年6月、イスラム教徒のラマダン(断食月)が行われ、台湾でヘルパーとして働くムスリム(イスラム教徒)の多くが休暇を取った。この時期は仕事の依頼が増加した。「優照護」を利用するのは、高齢の要介護者を抱える家族だけではない。ときには自身が病気になったり、手術が必要となったりして、自分の身の回りの世話をしてくれるヘルパーを必要とすることもある。

例えばある利用者は、父親が月、水、金曜に人工透析を受ける必要があり、そのたびに出勤前に父親を連れて病院へ行き、透析が終わるころ、会社の昼休みを利用して父親を迎えに行くという生活を送っていた。長くこうした生活を続け、疲れがたまっていたとき、「優照護」の存在を知った。ダメ元でサービスを利用してみたところ、自分の負担が軽くなっただけではなかった。「あのときは、藁をもつかむ思いだった。でも、つかんだのが一艘の大きな船で、私を岸まで引き上げてくれるとは思ってもなかった」と感慨深げに話す。

「優照護」は台北市が実施する「産業発展奨励補助計画」の助成を受けて開発された。また、経済部中小企業処が実施した「公益科技創新応用」の企画コンペで優勝。2018年には国家医療生技産業策進会から「国家新創奨」を授与されている。

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