2025/08/20

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台仏学術研究協力、小脳悪性腫瘍の発症メカニズム突き止める

2019/07/25
台湾の国立陽明大学脳科学研究所とフランスのキュリー研究所は、小児がんの中でも悪性脳腫瘍として最も有名な髄芽腫(ずいがしゅ)にターゲットを当て、子どもの脳の発育過程で悪性腫瘍が発生するメカニズムを解明した。写真は国立陽明大学で行われた記者会見の様子。(国立陽明大学サイトより)
子どもの脳の発育過程で悪性腫瘍が発生するのはなぜだろうか?これは、脳に悪性腫瘍が発生した子どもやその両親たちに永遠の苦痛を与え、そして世界中の脳腫瘍専門家にとっても解けないナゾの一つであった。フランスの研究チームは、台湾の国立陽明大学脳科学研究所との協力により、台湾の最先端映像技術を使って、ついに今年、子どもの脳に悪性腫瘍が発症するメカニズムを突き止めることに成功。これを抗がん剤の研究・開発にも応用している。この研究の成果がこのほど、発生生物学分野の学術ジャーナル『Developmental Cell』に掲載された。
 
台湾とフランスの研究チームは小児がんの中でも悪性脳腫瘍として最も有名な髄芽腫(ずいがしゅ)にターゲットを当てた。もともと科学者の間では、Atoh1と呼ばれる転写因子(タンパク質)が髄芽腫の発症と関係があるということは知られていた。しかし、それがなぜかは明らかにされていなかった。この問題は、仏パリにあるキュリー研究所の科学者たちの頭を悩ませていた、しかし、どのような動物実験によって両者の関連性を理解すればよいかが分からずにいた。
 
5年前のある台仏交流イベントをきっかけに、フランスの研究チームと国立陽明大学脳科学研究所が協力することになった。神経幹細胞の研究を得意とする国立陽明大学脳科学研究所の蔡金吾副教授のチームの力を借り、両者は電気穿孔法(エレクトロポレーション)技術を使って初めて、ラットの小脳神経幹細胞の発育過程を追跡することに成功。ついに顕微鏡を使って、神経幹細胞の癌化現象を確認し、科学界における長年のナゾを解くことができた。
 
蔡金吾副教授によると、子どもの小脳はその発育期間、小脳神経幹細胞が細胞分裂と分化を繰り返すうちに、正常な小脳細胞へと発育していく。しかし、研究チームは、これらの小脳神経幹細胞がもつ最も特殊な点を発見した。それは、細胞からアンテナのように伸びる1本の一次線毛だ。一次線毛はその構造上、外からのシグナルを受け取ると、いくつもの分子レベルの伝達経路を発動し、発育段階において幹細胞を引き続き分裂させ、小脳細胞を作り上げる。張家祥医師は数日間にわたる観察の結果、初めて顕微鏡を使って、転写因子Atoh1がいかにして小脳細胞の発育過程に影響を与えているかを、明確に見ることに成功した。張医師は同時に、脳腫瘍細胞の中ではAtoh1が多く、その一次線毛を過度に活性化させることで小脳神経幹細胞が大量に分裂し、最後に細胞の癌化を引き起こすことを思いがけず発見した。
 
放射能の研究に生涯を捧げたマリ・キュリーはその晩年、長期間の放射線被曝が原因でがんを発症した。このためキュリー研究所は、設立当初から悪性腫瘍の研究に重点を置いていた。これに、国立陽明大学の卓越した脳科学研究と技術が加わり、双方の強みを組み合わせることで、このような重大な科学的発見を成し遂げることができた。小脳腫瘍の発症メカニズムが解明されたことから、今後はこの伝達経路を遮断することができれば、小脳神経幹細胞の癌化を防ぎ、小脳腫瘍の治療に新たな契機をもたせる可能性がある。
 
この研究論文は国立陽明大学脳科学研究所の蔡金吾副教授と仏キュリー研究所のOlivier Ayrault研究員が責任著者(Corresponding author)を務める。また、国立陽明大学の張家祥医師が第一著者(first author)に名を連ねている。張家祥医師は、国立陽明大学で学士と修士の学位を取得し、今年、同大学と中央研究院が合同で開設する「分子医学国際学程」で博士号を取得したばかり。
 
この研究は、科技部の「台法幽蘭計画(MOST-BFT ORCHIDプロジェクト)」、教育部の「深耕計画」、それに国立陽明大学医学院の「十年建設発展計画」等の研究助成を得ており、台湾とフランスの両国の協力による卓越した研究成果を象徴するものである。
 

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