台湾南部・台南市が市の文化財に指定している「陳世興宅」の修復工事を始めるにあたり、29日には古来からのしきたりに則って、線香を焚いて着工を祝うと共に「陳世興宅」の四方のレンガや壁などを金槌で叩いて一周する儀式が執り行われた。
「陳世興宅」は台南市中西区忠義路の路地にある。周辺には国が指定する文化財である赤崁楼、祀典武廟、大天后宮のほか、台南市の文化財である萬福庵照牆もあるなど、ここは台南文化の中心的な区域で伝統的な「閩式建築」(中国大陸・福建省の建築様式)の特色と風格が保たれている。
「陳世興宅」は台湾に現存するもっとも古い住宅建築の一つで、推定では乾隆15年(1750年)に建てられたものとされる。建築面積は350坪以上で、「正廳」(正面の大広間)の高さは6.4mに及ぶ。構造的な特色としては、台南地区特有の様々な形式の「鉄剪刀壁鎖」を残した山型の壁が挙げられる。「鉄剪刀壁鎖」は壁と内側の梁を固定しておくためのもの。壁に埋め込まれた鉄製のハサミのようなデザインになっているもののほか、ここには「S字型」、「T字型」、「X字型」のものも残っている。また、重さを支える壁に使われたレンガの「顔只磚」、屋根瓦の様式、木枠の中は藁と石灰・粘土・砂を混ぜ合わせた土で作った壁、そして広い軒の下に敷かれた花崗岩の石段など、いずれも台湾の住宅建築としてはまれな例だという。
さらに建物が過去に修繕されてきた痕跡も様々な変遷を示す価値と特色であり、台南市においては非常に珍しい。なお、「陳世興」は人名ではなく、「墾号」。「墾号」とは清の時代に開墾を土地の自治体に申し出て許可を得た「開発団体」の名称で、「陳世興」は乾隆31年(1776年)までに設立されている。
台南市は2015年、「文化資産保存法」に従って「陳世興宅」を市の文化財に指定した。今回の修復工事は「再造歴史現場計画-台南市再現赤崁『署』光」(REGENERATION OF HISTRIC SITE-台南市が赤崁の「朝日」を再現)プロジェクトにおける歴史的市街地振興・再生計画の1つとして行われる。
台南市の黄偉哲市長は29日午前、暦の上で吉祥とされる時刻に「陳世興宅」修復工事起工式に出席して儀式を執り行い、「陳世興宅」の所有者代表である陳朝欽さんらと修復工事のスタートを宣言した。「陳世興宅」の修復工事は540日間行われる予定。