中国語映画のアカデミー賞とされる金馬奨(ゴールデンホース・アワード)は今年で56回目。今年は中国大陸の映画及び香港の商業映画の大作がいずれもエントリーしていないことで、各賞は台湾の作品と香港のインディペンデント系の映画によって争われる。「台北金馬影展執行委員会」(Taipei Golden Horse Film Festival Executive Committee=ゴールデンホース・フィルムフェスティバル執行委員会)の聞天祥執行長によれば、今年は最優秀主演女優賞が熾烈な争いになっているほか、最優秀新人賞も有力候補がひしめき、もう1つの「死の組」となっている。
最優秀新人賞にノミネートされているのはいずれも台湾の俳優で、『返校』(Detention)で男性の主役を演じた曽敬驊、『下半場』(We Are Champions)に出演した男優の范少勲、『我的霊魂是愛做的』(My Soul is Made of Love)の男性主人公の邱志宇、『大餓』(Heavy Craving)でヒロインを担当した蔡嘉茵、『楽園』(The Paradise)に出演した男優の原騰の5人。
また、最優秀新人監督賞のノミネートリストからは、台湾の新人監督とジャンル映画の努力が実を結んでいることが見て取れるという。今年、台湾映画の興行成績でトップとなった『返校』(徐漢強監督)、まもなく公開されるミステリー映画『聖人大盗』(The Last Thieves 徐嘉凱監督)、昨年公開されたアクション映画『狂徒』(The Scoundrels 洪子烜監督)はいずれも商業映画としての特定のジャンルにマッチしたものだという。
一方、ノミネートから漏れたことを残念がる声もある。ゴールデンホース・アワード執行委員会の聞天祥執行長は、一部の俳優がノミネートされなかったことのほか、今回最も残念だったのは、4部門にノミネートされながら最優秀作品賞からは漏れた『那個我最親愛的陌生人』(The Beloved Stranger)だと話す。聞執行長によると、今年のノミネート作品を決める審査で最初に討論されたのが最優秀作品賞。『那個我最親愛的陌生人』はここで多くの支持を集めながら最終投票で惜しくも落選。同作品はその後、他の部門での議論でも度々名が挙がったが、最終的には最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、最優秀助演男優賞、最優秀視覚効果賞の4部門でのノミネートにとどまった。
また、中国大陸の作品のエントリー状況について聞執行長は、「エントリーせず、エントリーしてから自ら取り消し、エントリーはしたものの落選」と、3つのケースがあることを説明。その上で、第56回ゴールデンホース・アワードにエントリーできなかったとしても、今年7月から来年6月までに公開された、あるいは公開される中国語映画ならば次回の第57回ゴールデンホース・アワードにエントリーは可能だと指摘した。
ベテランの映画評論家、黄建業氏はこれについて、近年の世界における政治情勢の急速な変化を憂慮する。黄氏は、極端で異なる政治的立場を原因とする対立が相次ぎ、常に新たな動きが生まれるなど未来を占うことが大変難しくなっているとする一方、中国語映画の最高栄誉としてのゴールデンホース・アワードにとって最も重要なのは外部環境の影響を受けず、独立性と公正性を保ち、プロフェッショナルとしての映画賞であり続けることだと主張した。また、ゴールデンホース・フィルムフェスティバル執行委員会の聞天祥執行長は、同執行委員会の主席を務める世界的な映画監督、アン・リー(李安)氏の言葉を引用し、「ゴールデンホース・アワードは常にオープンな態度でいる」と述べた。聞執行長はそして、「作品の規模にかかわらず、ここでは全ての作品が公平な扱いを受ける。これこそゴールデンホース・アワードの最も重要な意義であり精神だ」と強調した。
第56回ゴールデンホース・アワードの受賞作品・受賞者は11月23日に国父記念館(台湾北部・台北市)で行われる授賞式典で発表される。