国立台湾大学海洋研究所の詹森所長が率いる研究チームは、2015年に科技部(日本の文部科学省に類似)の経費助成を受けて「黒潮流量及変異観測計画」を実施したのに続き、2016年に再び科技部の経費助成を受け、海洋調査ロボット「Seaglider(シーグライダー)」を台湾で初めて購入し、黒潮の観測を行った。研究チームは黒潮の強い流れの下にある、ミルフィール状の水文構造を世界で初めて解析するのに成功した。
詹森所長によると、「シーグライダー」の購入価格は650万台湾元(約2,240万日本円)だった。87日間観測を行うとした場合、台湾大学海洋研究所が所有する海洋調査研究船「海研一号(R/V Ocean Researcher 1)」の使用料が3,480万台湾元(約1.2億日本円)必要なのに比べると、「コストパフォーマンスが非常にいい」と語る。また、「シーグライダー」の特別なところは、水平方向のスキャン回数が多い点だ。同じ範囲内の水平方向では、海洋調査研究船が約8~10回であるのに対し、「シーグライダー」は延べ100回以上もスキャンが可能だ。
黒潮は、その通り道となる海水の水文、生態系、気候に非常に大きな影響を与える。海水と大気が相互に作用することで、地球温暖化や気候変動、台風の進路にまで影響を与えることがある。今回の研究は、気候変動のシミュレーション結果の差異を埋めるのに役立つもの。
「シーグライダー」はまず2016年12月から2017年3月までの期間、初めて投入した。台湾東部沖の黒潮の通り道で三角測量を行い、その水文、溶存酸素量、蛍光強度、後方散乱係数を記録した。87日間の測量で「シーグライダー」は延べ434回の潜水を行い、航行距離は2,095キロメートルに達した。
データを分析したところ、台湾東部沖の黒潮の強い流れの下にある海水層の水文構造は「これまでの認識を覆すもの」であることが判明した。これまで黒潮は安定した海流だと見られていたが、実際には形が定まらない、時に大きくなったり小さくなったり、近くなったり遠くなったりするものであることが分かった。
黒潮が流れるエリアでは、温度と塩分濃度が異なる水塊がぶつかり合うが、それはすぐに混じり合い、新たな水塊を作るわけではない。水塊の表面で摩擦が生じ、複雑な二重拡散対流が起きる。これにより、黒潮の断面図は、2つの水塊が上下に交錯する水文構造を成す。1つの層の水平の長さは10~100キロメートルと異なる。層と層の厚みは約50メートルで、例えるならばミルフィーユに似た水文構造を作り上げている。
こうしたメソスケールの水塊が何層にもなっている現象は、北極海、大洋(たいよう)、赤道付近の海域など弱い海流の環境や、水塊が混じり合う海域などでよく観測されるものだ。しかし、西岸境界流など強い海流の場所での観測や研究は、現在のところ極めて少ない。このため、今回の観察結果は、台湾の海洋研究にとって新たなマイルストーンと言うことができる。
この研究の成果は8月6日に発表された総合学術雑誌『Nature』系列のジャーナル『Scientific Reports』で発表されている。この観測技術の構築と論文の発表には、いずれも海外から高い関心が寄せられ、国立台湾大学海洋研究所の研究チームがユネスコの下部組織である合同海洋・海上気象専門委員会(JCOMM)の招きを受け、一緒に「Ocean Gliders Boundary Ocean Observing Network(BOON)」を推進し、台湾東部の黒潮に関する永久的な観測を担当するきっかけになった。国立台湾大学海洋研究所の詹森所長はこのほか、BOONの運営委員会(Steering Team)のメンバーに任命されている。