国立台湾美術館(台湾中部・台中市)が主催する「亜洲芸術双年展」(アジアン・アート・ビエンナーレ)は2007年にスタート。アジアの多元的な文化のほか、キュレーターが命題を提示する形でアジアの社会における変化、並びにアジアと全世界が互いにもたらす影響を探っており、北東アジアと東南アジアを代表する現代アートの交流プラットフォームとなっている。
今回のテーマは「山と海からやってきた異人」。この「異人」は「稀人」からインスピレーションを得たもので、他民族、神や幽霊、亡命者など、自分のグループに属さない者や異なるグループの中間に立ってそれらを結びつける者を指す。祈祷師やスパイ、外国の商人などである。また、グループが垂直に並ぶ概念も2つ提示する。1つはゾミアの代表する「山」とスールー海の代表する「海」。国や民族で区域を分けたのでなく、平地社会にとっての異なる場所、あるいは人類の視野を超えた異郷であると拡大解釈することも出来る。もう1つは「雲」と「鉱物」。対流圏から地底の奥深い場所へと、人類の尺度を超えた時空の感覚を以って人、物、科学技術の間の複雑な関係を描き出す。
現代アートの芸術家がアジアにおける政治、歴史、経済面の文化的議題及び科学技術の問題に対し、いかなる解釈を行うのかが注目される。人間の視点ではなく、地質的な尺度で思考し、既存の知識の限界を乗り越え、様々なイデオロギーのぶつかり合いと交流を通じて参観者により多くの想像と探究のきっかけを与える。
今年の「アジアン・アート・ビエンナーレ」は16カ国から30組のアーティスト及びチームを招いており、絵画、インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスアート、ワークショップなど多元的な形式で展示が行われる。委託創作作品は9点で、いずれも展示計画と結合したもの。ゾミアエリアの作品で、中国大陸のアーティスト劉窓氏による『比特幣挖礦與少数民族田野録音』は東南アジアの山地で少数民族を対象にフィールドワークを行った作品。その場所は雨季の降水量が多く、水力発電所が大量の電力を必要とするビットコインの採掘場を助けている。作品では民族の歴史と生態系、科学技術のそれぞれ異なる面が重なり合う。
タイのアーティスト、Korakrit ARUNANONDCHAI氏とAlex GVOJIC(with boychild)氏による最新のビデオ作品『在一個満是怪人的房間裡沒有歴史5』はタイの少年12人とサッカーのコーチが洞窟に閉じ込められ、最終的に救出された事件からタイの保守的な思想、自然環境、科学技術の進化、政治、文化の間の関係をあぶりだす。亡命したミャンマー王室の末裔でもあるアーティスト、Sawangwongse YAWNGHWE氏による作品は、その家族史、ミャンマーの近代史、政治事件と強く関わっている。今回、「アジアン・アート・ビエンナーレ」のために制作した『鴉片視差』は長さ4メートルの布にアヘンの歴史とアヘンが社会に与えた影響を細かく描写している。また、タイのアーティスト2人組JIANDYINの『磨擦流動:魔幻之山計画』では、「我々はみな永遠に続く山河にとっての異人」だと主張、民族国家とゾミア地域の境界一帯で、対抗運動もしくは摩擦が生み出している現象に関心を寄せる。
スールー海に関するテーマでは台湾のアーティスト、邱承宏氏による大きな帆のインスタレーション『破碎的羅曼史』が今回の受託創作の1つ。1819年の探検家、Dumont d’ Urvilleを原文として海の冒険並びに西洋文明の流行と、文化や政治との関係を表現した。東南アジア全体としての文化と記憶、個々の状態、社会の権力構造に関心を寄せるマレーシアのアーティスト、于一蘭(YEE I-Lann)氏は、スールー海の景色で様々な「スールー海の物語」を伝えている。また、日本のアーティスト、田村友一郎氏はインスタレーションとパフォーマンスアートとを合体させた『背叛的海』を出展して現代のボディビルの歴史を紹介、三島由紀夫に関するナレーターで第二次世界大戦後、米軍が横浜に駐留してボディビルを日本に持ち込んだいきさつを明らかにする。
インドネシアのアーティスト、Antariksaのインスタレーション『共同資産 #4』は、戦争期間中プロパガンダもしくは戦闘の記録に携わった日本の知識分子たちの伝記を使って創作。歴史学者の叙述方法に対抗するとともに、人々を歴史に参加させたり介入させたりする様々な方法を検証する。シンガポールのアーティスト、HO Rui Anが戦時中の留学生のイメージで東アジア地域の資本主義の現代性と過激な文化を批判した『学子們』は教育学の恐怖を伝えている。インドのアーティスト、Zuleikha CHAUDHARI氏の『排演自由印度臨時政府廣播電台』は1940年代初め、インドの民族主義者がドイツによる支援を受けた放送局で録音した音声記録を背景にしたビデオ作品。台湾のアーティスト、劉玗氏の『Salvation Mountain』は米国におけるゴールドラッシュの歴史を通して、人類がいかに鉱物を掘り出して世界とイデオロギーを築き上げたかを表現する。
「アジアン・アート・ビエンナーレ」は10月5日から来年2020年2月9日まで、国立台湾美術館で開催されている。