台湾の科学者の提唱によって設立されたプロジェクト「SYNAPSE(Synchrotrons for Neuroscience–An Asia Pacific Strategic Enterprise)」のアライアンス発足式が15日、シンガポール国立大学で行われた。超高解像度X線CTによる3Dスキャン技術と高度な計算技術を駆使し、3年以内を目途に、世界初となる人間の脳の神経細胞とそのネットワークを示す超高解像度3D総合マップを作り上げる。今回発足したアライアンスにより、シンガポール、オーストラリア、中国、日本、韓国、台湾のシンクロトロン光源、神経科学、計算科学、物理、化学、工学などの研究機関に所属する数百名の科学者がプロジェクトに参加することになった。
台湾の研究チームを率いるのは、台湾の最高学術研究機関である中央研究院物理研究所の胡宇光・特聘研究員や、国立清華大学(台湾北部・新竹市)の生物学者である江安世教授だ。台湾の研究チームは今後、台湾の国家同歩輻射研究中心(=国立シンクロトロン放射光研究センター、略称NSRRC)が持つ最先端のシンクロトロン光源やスーパーコンピュータを構築する国家実験研究院国家高速網路與計算中心(National Center for High-performance Computing、略称NCHC)、その他の学術機関や研究機関などと協力し、これまでの研究の経験と成果をふまえ、人類の脳やネズミの脳のマップ作成のうち最も重要な、スキャン画像の切り取り、処理、コーディネート、データ管理などを担当する。
シンガポールで発足した「SYNAPSE」アライアンスの初期メンバーは15日、最初の研究備忘録(MOU)に署名し、2023年までに人間の脳全体を細胞レベルまで解析した世界初となる神経ネットワークのマップを作り上げることを宣言した。
人類の脳のマッピングの過程では大量の研究データが生まれる。このため「SYNAPSE」アライアンスのメンバーは同日、2つ目の研究備忘録(MOU)にも署名した。これは、高効率の計算ネットワークを構築し、あらゆるデータを有効に処理、収集、共有、分析することを盛り込んだもの。台湾のNCHCが持つ最先端の演算能力は、「SYNAPSE」アライアンスのデータネットワークにおいて重要な役割を担うと見られる。NCHCは台湾最先端のスーパーコンピュータと高速国際ネットワークを運用して「SYNAPSE」の合同計画に参与する。
このアライアンスの初期メンバーの一人、シンガポール国立大学の劉建明(Chian-Ming Low)教授は、「脳疾患が世界人類の医療保健に与える影響はますます大きくなっている。脳のマッピングに関する研究は当面の急務となっている」、「我々の発見は、神経細胞の退行性変化を呈する重要な疾患、例えばアルツハイマー症などの治療に効果があるはずだ。これは、医療保健分野におけるこのアライアンスの重要性を最も説明するものでもある」と指摘している。
今回はノーベル化学賞受賞者であるクルト・ヴュートリッヒ教授とアダ・ヨナス教授も招かれて出席し、2つの研究備忘録(MOU)の署名式と合同プロジェクト「SYNAPSE」の始動に立ち会った。また、ほかの研究者たちと交流を深め、「SYNAPSE」やシンクロトロン研究との協力について自身の考えを伝えた。
台湾の研究チームの研究は2003年以降、行政院国家科学委員会(=現在の科技部)の「奈米国家型計画(=ナノテクノロジー国家型プロジェクト)」、「卓越領航計画」、江安世教授の「前瞻研究中心」などの計画の支持を長年受けてきた。