勝負に台湾風フライドチキンの「鶏排」を賭けるのが流行している台湾では、総統選挙も「鶏排」の香りに満ちている。台湾では政治家や著名なコメンテーターが自らの予想や約束事が実現する、あるいは実現しなかった場合に「鶏排」を振舞うことを約束する文章を出す特殊な現象がある。米国の国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が報じたことで、この現象は台湾のユニークな特色となった。これを受けてフェイスブックの「反吱者聯盟」は鶏になり代わり、「誰が勝つかに賭けるのはかまわないが、『鶏排』を賭けなくてもいいだろう。俺たちが受けるプレッシャーは大きいんだ」と訴えてみせた。一部のネットユーザーはさらに、「選挙の日は『鶏の受難日』と命名すべき」と主張。牛や羊、豚が鶏に同情しているイラストまで登場した。
●「鶏排」効果は2018年の統一地方選挙から各地に拡散
なぜ「鶏排」を賭けるのか。「牛排」(ビーフステーキ)や「烤香腸」(あぶったソーセージ)ではいけないのか。中国文化大学(台湾北部・台北市)広告学科の鈕則勲学科主任は、『鶏排』を売る店が台湾各地にあり、振舞ったり届けたりするのが容易であることを指摘する。同学科主任によると、こうした利便性に加えて手ごろな値段、さらにお年寄りから子どもまで食べられるB級グルメであること、そして特に重要なのは話題性に満ちていることが台湾の人たちが「鶏排」を「賭け金」代わりにするのを好む理由だという。
「鶏排」は台湾の人たちが最も愛する庶民的グルメの1つ。2018年の統一地方選挙で国民党の韓国瑜氏は「庶民」のスタイルをアピールして高雄市長選挙に挑んだ。当時、著名なコメンテーターの1人で 韓国瑜氏が当選すると予想した朱学恒さんはライブ配信する中で視聴者らと約束。韓国瑜氏が高雄市長になったならば「『鶏排』をおごる」と宣言し、その後韓氏が当選したことで朱学恒さんは2万食を超える「鶏排」を振舞ったのである。
また、国民党の台南市党本部で主任委員を務める謝龍介氏は今回の第15代正副総統選挙の投票前、国民党の韓国瑜候補が民進党の蔡英文総統に対して少なくとも90万票の差をつけて勝つと予想、もし8万9,999票しか差が無かったならば台北市(台湾北部)、台南市(同南部)、高雄市(同南部)で各900食、合計2,700食を振舞うと約束。ニックネーム「館長」のユーチューバー陳之漢氏はこれに対し、蔡英文総統の再選に1万食を賭けた。
しかしこうした「約束文」は法務部(日本の法務省)や内政部(日本の省レベル)から買収行為だと疑われ、謝龍介氏はただちに「約束文」の内容を修正し、「鶏排」を振舞うのを、公益団体に対する寄付30万台湾元(約109万日本円)に改めた。選挙後、予想が外れた謝龍介氏は自身のフェイスブック上に寄付金の領収書の写真を投稿、3つの公益団体にそれぞれ10万台湾元(約36万日本円)を寄付したことを報告した。
一方、陳之漢氏は約束を果たすとしながらも、大きさわずか3センチメートルの「鶏排」を見せて、「『鶏排』を振舞うとは言った。でもサイズについては明確にしていなかっただろう」、「これでは『鶏排』じゃないと言うのか。小さくても衣があり、骨があり、肉がある。『鶏排』だろう」と説明した。
●「鶏排」の背後には信用があり、笑い話では済まされない
中国文化大学広告学科の鈕則勲学科主任によると、『鶏排』は庶民のB級グルメで、ただで食べられるのは「小確幸」(「小さいけれども確かな幸せ」のこと)であることからネット上で共感を集めたり、話題となったり、メディアに取り上げられたりしやすく拡散力が強い。「鶏排」を賭けることが得票につながるかどうかはともかく、少なくとも宣伝効果はあるという。
国立中山大学(台湾南部・高雄市)政治学研究所の劉正山教授は、有名人やユーチューバーは自らの言論に人々が反応することを狙っており、「賭けること」はとりわけ共感を得やすいと指摘する。また、ネットユーザーたちは「自分で楽しみながら他人も楽しませよう」と言う心理から、有名人が賭けるのに合わせて騒ぐのを好む。劉正山教授は、こうしたことから「鶏排」を賭けることは台湾における特殊な現象になったのだと分析した。一般人には「鶏排」を賭けたにもかかわらず予想が外れて雲隠れする人もいる。しかし劉教授は、政治家が一般人のように「知らんぷり」したり笑って済ませたりしたならば有権者からの信用を失うことになると警告、賭ける人たちの冗談ならびに高みの見物を決め込む人々の背後には、「誠実に約束を守るかどうか」という厳粛な問題があるのだと強調している。