2025/05/08

Taiwan Today

文化・社会

台北市立美術館で女流書道家・董陽孜さんの個展「行墨」

2020/01/31
国家音楽庁(コンサートホール)の入り口には、董陽孜さんが書いた『瑟兮僩兮赫兮咺兮』の文字が掲げられている。君子のあるべき姿を表現した言葉だ。豪華絢爛で西洋的要素の強い国家音楽庁に中華文化の要素を添えている。(中央社)
董陽孜さんといえば現在最も影響力を持つ書道家の一人だ。彼女の書道作品は、字の書き順や構図の美しさを強調することで知られる。台湾北部・台北市中山区にある台北市立美術館(TAIPEI FINE ARTS MUSEUM)は現在、董陽孜さんの1960年代から現在までの作品94組を集めた大規模な個展を開催している。個展のタイトルは「行墨」で、大型の作品のほか、台湾では初出展という米国留学時代の油絵作品なども展示してる。
 
董陽孜さんは1942年、中国・上海で生まれた。10歳で台湾に移り住み、国立台湾師範大学美術系(=美術学科)で学んだ。学生時代には、張穀年さん、丁念先さん、台静農さん、張隆延さん、傅申さんといった書画の専門家に指導を受けた。卒業後は米国に渡り、芸術作品の創作に打ち込んだ。そして1977年に台湾に戻って以来、現在に至るまで多くの書道作品を生み出している。
 
董陽孜さんの書道芸術は、古代の碑帖(ひじょう)を臨書することから始め、西洋の視覚芸術の構図をその中に取り入れたものとなっている。作風は力強く、奔放だ。当初はあらかじめ構想を練ってから作品にしていたが、現在は完全に心の赴くままに筆を走らせる。即興で筆を動かすスタイルで、「文字芸術」という新たなジャンルを作り上げた。
 
1970年代以降、董陽孜さんは筆と墨汁という伝統的な媒材に、モダンアートの構成を加え、行書体や草書体といった多様な書体を組み合わせた作品を作るという実験的な試みに挑戦するようになった。こうして2002年から2018年までの前後約15年間、董陽孜さんの書道は自宅の机から離れ、大きな空間を利用したアート作品へと転じ、従来の書道作品と鑑賞者との相互関係を変えていった。
 
董陽孜さんは近年、ファッション、デザイン、舞台、ひいては空間とのコラボに取り組み、書道芸術を時代の脈動にしっかりと絡ませている。その作品『瑟兮僩兮赫兮咺兮』は台北市内にある国家両庁院が収蔵し、そのうちの国家音楽庁(コンサートホール)で永久展示されている。高い文化性を持った作品で、国家音楽庁の文化的景観を豊かなものにしている。また、台北駅に掲げられた「台北車站」の大きな題字や、コンテンポラリーダンスカンパニー「雲門舞集(クラウドゲイト・ダンスシアター)」や大手書店である金石堂書店のロゴ、台湾桃園国際空港の出入国審査場に掲げられた「出境」と「入境」の文字など。董陽孜さんの文字はすでに、台湾の人々の集合的記憶となっている。
 
スマホもパソコンも持たないという董陽孜さん。「テクノロジーは生活を便利にするけど、人間関係はそれによってますます希薄になってしまう。パソコンはクリック一つですべてを消すことができる。だけど忘れないで。手書きの古い手紙は、いつになっても味わい深いものよ」と話す。
 
結婚して子どもが生まれ、家庭中心の生活を送っていたが、子どもも大きくなり、2000年ごろから創作活動を再開するようになった。「異業種コラボを行うのは、私自身が学習と進歩を必要としているから。文字芸術が現在のように発展したいま、私は書道が視覚芸術として扱われることを望んでいる。そして、インターネットの世界に生きる人々に影響を与え、彼らに筆やペンで字を書く機会を持たせたい。書道の美学によって文化を継承し、より多くの人に影響を与えたい」と意気込む。
 
「台湾を愛する台湾人は、自分の文化をもっと認識すべき。特に筆墨文化は中華民国を代表するものだ」と指摘し、文字芸術の重要性を訴える董陽孜さんは「子どもは英語が分からなくても良い。しかし、中国語が分からないようではいけない」と主張する。
 
董陽孜さんの個展「行墨」は3月8日まで、台北市立美術館で開催されている。
 

ランキング

新着