2025/05/09

Taiwan Today

文化・社会

「茶で料理を引き立てる」 池宗憲さんがお茶のソムリエを語る

2020/03/13
「茶学」の研究に努めて40年以上の池宗憲さん(左の写真)により、台湾に「お茶のソムリエ」が誕生。揚げ物あるいは大豆などで作られた豆製品に対しては、茶のタンニンが潤滑効果を生むので味を際立たせることが出来るという。(聯合報より)
お茶の科学や文化などを網羅する「茶学」の研究に努めて40年以上の池宗憲さんは、「以前はみな食事と言えば、酒と合わせることで料理が美味しくなると言った。しかし実はお茶こそがさらにその味わいを通して遠方の味を見つけさせるのだ」と語る。原点となる「以茶佐餐」(お茶が料理を補佐する=引き立てる)という考えは池宗憲さんを「侍茶師」(お茶のソムリエ)の普及に乗り出させた。すなわち茶はもはや食卓の隅に置かれ、のどに残る脂っこさを解消するだけの脇役ではなく、料理の味をより引き立てる主役なのである。
 
「茶に仕える」のは奥深く、料理への理解も必要
 
ザ・ランディス台北(台北亜都麗緻大飯店)にあるレストラン「天香楼」のフロアで働く「侍茶師」はまだ修業を終えたばかり。池宗憲さん自ら育て上げた「お茶のソムリエ」だ。池さんによると、「侍茶師」と「茶藝師」の最大の違いは、「侍茶師」が料理も知らねばならないこと。「茶藝師」は客のために高度な技巧で茶を淹れればそれでいいが、「侍茶師」には茶の種類、味、茶の味と料理との組み合わせの全てを深く理解していることが求められる。ちょうどワインのソムリエのように、1分以内にその茶の生産地、生産された季節、そしてその料理と合わせるとどのような特色があるのかを客に紹介できなければならない。「侍茶師」はいわば「茶藝師」のアップグレード版なのである。
 
例えば「栗子焼羊腩」(クリと羊のあばら肉の煮込み)という料理のため池さんは武夷山の肉桂茶(武夷山の岩茶の1つ)を選ぶ。池さんによると、お茶を肉料理と合わせるのは最も難しい。なぜなら茶は肉に渋みを与えるから。しかし武夷茶には「武夷酸」があり、肉の繊維を柔らかくする。またこのお茶には特別な香りである「岩骨花香」もあり、羊の肉を口の中でより柔らかく、甘みのあるものへと変える。また、「竹笙絲瓜」(キヌガサタケとヘチマの煮物)と「天香豆雲糕」(餡入り緑豆糕)に池さんは、2019年に「茶齢」500年の茶から新たに作り出した普洱茶(プーアル茶)を合わせ、ヘチマの純粋な甘みと松の実のさわやかな香りを際立たせた。こうした組み合わせはまさに絶妙である。
 
「茶学」は幅広く奥深い。また、茶には数え切れない種類がある。しかし池宗憲さんによれば、発酵と焙煎の程度を理解できればそのお茶が落ち着くべきところを探り出せ、そこからそれに合う食材の属性を割り出せる。池さんは、「発酵の程度により大きく6つの茶に分けられる。発酵の程度が少ない方から順に、緑茶、白茶、黄茶、青茶、紅茶、黒茶だ。緑茶や白茶のように発酵させないものはタンニンが多いため、さっぱりした海鮮料理に合う。発酵が中レベルなのは青茶やウーロン茶、武夷茶、包種茶。発酵の程度が強いのは紅茶と黒茶で、これらは様々な肉料理に合わせられる」と語る。またこうした「原則」のほか、「侍茶師」には臨機応変な判断が求められる。池さんは、「料理にシイタケが入っていれば、茶はやや濃くなければならない。羊の肉とビーフステーキはどちらも武夷茶を合わせられるが、その種類には少々違いがある。そして揚げ物あるいは大豆などで作られた豆製品に対しては、茶のタンニンが潤滑効果を生むので味を際立たせることが出来る」と話し、1つのことから類推して多くのこと知っていくことで、料理の味をより引き立てられるのだと説明する。
 
初の「侍茶師」が登場、お茶を食卓での主役に
 
ソムリエは高級料理の世界で歴史ある存在で、高級なレストランの多くで欠かすことの出来ない重要な役割を担っている。一方「侍茶師」は最近になって池宗憲さんが広めているもの。こうした差がついていることの原因を、池さんはお茶の世界がずっと、特別な人たちをターゲットにして発展してきたことだと指摘する。池さんは「お茶を飲むにあたって多くの人はその環境にだけこだわる。美しい茶席を設けたり、お茶と仏教や修行を一緒に並べたりする。しかしそこから生まれる世界は小さい。産業と結び付いていないため、お茶が人々の暮らしに入っていくことは難しく、食事の際の主役になどなりようがないのだ」と語る。
 
池さんは昨年書店で、お茶を取り扱うフランスの業者が茶葉のセールスのため「侍茶師」という言葉を打ち出したことを知ると、ただちに「以茶佐餐」(お茶で料理を引き立てる)という考えが浮かんだ。池さんはまずプロフェッショナルとしての証書を申請し、その後はカリキュラムをデザインして「国際侍茶師学院(International Tea Sommelier Academy,ITSA)」を開設、似通った理念を持つザ・ランディス台北から、台湾初で、世界でももちろん初めての「侍茶師」を育て上げたのである。
 
訓練は半年間で合計1,440時間に及び、26人が全ての訓練を終え試験もパスして、「中華茶人雅興文化藝術協会」の理事長を務める池宗憲さんから正式に「侍茶師」の認証勲章を授与された。ザ・ランディス台北からは13人が合格した。
 
訓練のカリキュラムには学科と実技がそろっている。茶葉の産地や特性などの基本的な知識のほか、茶を淹れる技術、茶器の特性に対する理解、淹れたお茶の色と香りの整理、料理と組み合わせる際の原理などが含まれる。また、基礎的な教育以外に味覚と嗅覚も磨かれる。訓練では目隠しをしたままでの水の飲み比べ、茶の歴史と関係の暗記、地理環境、焙煎と湿度への理解から始まり、さらに料理と組み合わせた飲み方などへと続く。これらを理解し、全て把握しなければ合格は出来ない。
 
池さんは、「だから私は常に学生に注意を促す。『侍茶師』となるにはまず喫煙しないこと、食べ物では塩辛さや辛味(トウガラシなどの辛さ)の強いものは避けること、勤務中は香水や乳液を使ってはいけないこと。味覚を敏感にしておくのを妨げるからだ」と話す。各地から集まった学生には全くの未経験者も少なくないといい、池さんは「最近ならイギリスから帰ってきたばかりの学生。また、今月中旬にシンガポールから来る学生。彼らは飲食業の経験が無い」と説明している。
 
記者気質、実証しながら茶と料理を研究
 
池宗憲さんは実は社会記者あがり。茶の世界に飛び込んだのは偶然の産物だった。1980年代の台湾にはコーヒーショップがまだ少なく、ウーロン茶などを飲ませる「茶藝館」が立ち並んでいた。記者だった池さんは時間があると「茶藝館」に入り浸り、お茶を飲みながらニュースを待った。「当時は国民党以外で政治活動を行う『党外人士』が『茶藝館』に集まっていた。だから私たちはそこで情報を待ちながらお茶を飲んでいた。つまり働いているうちにお茶への興味が生まれたというわけだ」、池さんは語る。
 
その後は記者仲間が酒を飲みに行くのに対し、池さんはお茶の世界に浸り続けることを選んだ。買った茶葉の値段が品質にふさわしいものなのか、休暇を使って茶の産地へ行って確認した。情報の「裏を取ろう」とする記者の気質が、池さんにお茶の領域での実力を育ませた。また「侍茶師」を普及させるため、池さんはそれまで以上に努力して中華料理と西洋料理、赤白ワインを研究した。
 
池さんは、「過去20年ぐらいこれをやっている。酒の構造、そして酒とお茶の関連性をはっきりさせて、お茶と酒の共通点を見つけ出す。例えばワインなら産地を探ることから価格やその系統へと広がる。これはお茶でも可能だ。『牛欄坑肉桂茶』とう名前は産地と品種から出来ている。これが巨大な組織系統として整理されれば売上げにつながるはずだ」と話している。
 
海外を旅行する中で池宗憲さんは、ミシュランガイドで星を受けている優秀なシェフの多くが「以茶佐餐」のコンセプトに強い興味を示すことを知って自信を深めた。これからは欧州で料理に最適なお茶を合わせる「ティーペアリング(Tea Pairing)」の共同プロジェクトを展開する計画だ。池さんは、「茶の産業が『侍茶師』の登場により、飲食の世界的な舞台で一定のマイルストーンへと到達できることを願っている。自分がそれを推進していると言うのはおこがましいが、少なくともそれに向けた教育をしていくことを選んだ。そしてより多くの人たちに、お茶も酒と同じように輝けることを知ってもらいたいんだ」と語っている。
 
 

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