2025/05/29

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文化・社会

「ゼロ・ウェイスト」に取り組む新米ママ、忙しい育児生活もなるべく環境に優しく

2020/05/08
今年3月、ゴミを出さない出産に挑戦した尚潔さん(左から2人目)とその家族。「ゴミの量を減らすことは当然重要だが、だからといって無理をしてはいけないし、生活の楽しみを失う必要はない」と尚潔さんは話す。(聯合報)
5月第2日曜日は母の日だ。子どもを持つと、より遠い未来のことを考えるようになるからだろうか。環境サステナビリティの問題に最も共鳴するのは母親だ、と誰かが言ったことがある。しかし、周囲の環境に対する関心はときに、立場の変化と関係がないこともある。独身の若い女性であれ、子どもを産んで母親になった女性であれ、自分が関心を寄せる分野で声を上げ、自分を持ち続けている人もいる。
 
漢方医であり、無駄・ごみ・浪費をなくす「ゼロ・ウェイスト」に取り組む尚潔さんが取材に応じてくれたのは、産休が終わる前の貴重な休みの日だった。それまでの1か月間、彼女の生活は多くの新米ママがそうであるように、授乳やおむつ替えで忙しかった。突然泣き出す赤ちゃんをあやすため、夜中に目覚めることもしばしばだった。睡眠不足に苦しみながら、赤ちゃんが日々成長していく姿に感動していた。しかし、尚潔さんがほかの新米ママたちと少し違うのは、新生児を迎えたばかりの家庭だというのに、紙おむつもティッシュもほとんど使わないため、ゴミの量が一般家庭の約7分の1しかないということだった。育児で忙しい日々を送りながらも、なるべく環境への配慮を心掛けるようにしていたからだ。
 
尚潔さんは現在28歳。「ゼロ・ウェイスト」の生活に取り組んで4年になる。レジ袋を受け取らない、買い物はマイバッグや容器を使うといった、簡単なことから取り組み始めた。その後、月経カップを使用したり、生ゴミをコンポストで堆肥にしたりして、生活の中にあふれる使い捨てのゴミを全面的に減らすようにした。2年前に結婚した際は、夫と話し合い、紙の招待状を発送しなかった。結婚式場の高砂(新郎新婦が座るメインテーブル)の背景にもボードを置かなかった。披露宴の紙おしぼりは小さなハンカチで代用した。披露宴参加者には自前の容器を持参してもらい、食べ残しを持ち帰らせた。これは台湾初の「ゼロ・ウェイスト」の結婚式となった。
 
尚潔さんは今年3月、同じく医師の夫と自宅出産に臨んだ。助産師の協力により、無事に女の赤ちゃんを産んだ。ほかの人から見たら尋常ではないと思われることだったが、夫婦は「ゼロ・ウェイスト」の徹底に挑戦した。台湾では妊婦の9割が病院での出産を選択する。しかし、必要以上に医療介入のある出産は、多くの医療廃棄物を出すという事実に目を向ける人は少ない。
 
病院での出産の多くは、医療従事者が主導する中、効率を追求したやり方で進められる。一方、自宅出産は妊婦が中心となって参加する空間が与えられる。例えば尚潔さんは会陰切開を行なわず、妊娠中の会陰マッサージで産道が開きやすくした。痛みを和らげる麻酔は打たず、沐浴やヨガボール、姿勢を変えるなどの方法で痛みを軽減した。陣痛促進剤も打たず、この世界に出てくるタイミングを赤ちゃんに委ねた。医療介入を減らすことは、医療廃棄物を減らすことにつながった
 
出産が終わって、尚潔さん夫婦は家の中にあったゴミを片付けた。ゴミ袋に入っていたのは、尚潔さんが体力補給のために食べたクッキーの袋、助産師が使った数枚の医療用手袋、排泄物を拭いたティッシュ、会陰裂傷を縫合した際の縫い糸、産後の悪露を吸収するために使った産褥シーツ3~4枚だけだった。
 
「私は自分の出産の、すべてのステップを自分で決めたかったのです。ただ分娩室に連れていかれ、病院が決めた流れに従うのではなく」と尚潔さんは話す。それは、病院での出産と自宅出産のどちらが良いというものではない。重要なのは、母親が出産に関わるすべての処置の意味を理解し、自分のニーズに合った選択をすることだと強調する。尚潔さんの出産でも、最終的にはゴミが生じたが、「出産のフルコース」のうち不要な「メニュー」を拒否することは出来た。これは十分に「ゼロ・ウェイスト」の精神を発揮したことになる。
 
「ゼロ・ウェイスト」に目覚めたとき、尚潔さんはまだ医学生だった。ゴミの減量は、その人の生活スタイルと大きく関わってくる。例えば、いかにコットンを使わずに化粧をするかとか、ウォシュレットを使ってトイレットペーパーの使用量を減らすなどだ。子どもが生まれると、「ゼロ・ウェイスト」の達成はより難しくなる。
 
出産を経て尚潔さんが学んだ最も大きなことは、こだわりを捨て、より柔軟な態度で変化に対応することだった。「ゴミを出すことに少し寛容になりました。最も高い基準で自分に要求することがなくなりました」と話す。
 
赤ちゃんに与える母乳は、最も自然で、しかも包装されていない食べ物だ。毎日使わなければならないおむつは、紙おむつではなく布おむつを使うようにしている。おしりふきも、ウエットティッシュではなく、湿ったガーゼを使う。しかし、「ゼロ・ウェイスト」の生活を長く続けるコツは、「快適だと思える状態の下で変えていくこと」だと尚潔さんは話す。尚潔さんは、赤ちゃんの夜泣きが止まらないとき、紙おむつを使うこともいとわない。それによって少しでも多く睡眠時間を作ることができるからだ。
 
尚潔さんは「心のエコ」も「ゼロ・ウェイスト」の生活の一環だと話す。ゴミの量を減らすことも当然重要なことなのだが、だからといって無理をしてはいけないし、生活の楽しみを失う必要はないのだ。「ゴミを出してしまっても、それは生命がいつも無常なことと同じです。こだわりを捨てれば、心が軽くなります」と話す。
 
台湾でも近年、不要な物を減らす「断捨離」や、必要最小限の持ち物だけで生活する「ミニマリスト」などの考え方が広がりつつある。尚潔さんにとっても、「ゼロ・ウェイスト」の最大の意義は、生活をシンプルにすることだ。消費ではなく体験に重きを置けば、実体のあるモノが減り、かえって精神的な資産が増えるという。
 
尚潔さんは麻酔や陣痛促進剤などの医療措置を使わない自宅出産を選んだことで、家族全員が心を一つにして協力する必要が生まれた。「多くの男性は、奥さんが分娩室に運ばれるのを見送り、そして突然、父親になったと知らされます。ですが、自ら新生児を迎えることができれば、より父親になった実感を持つことができるでしょう」と尚潔さんは話す。尚潔さんにとって、「ゼロ・ウェイスト」の出産はただのエコ活動ではなく、家族3人が一緒になって初めて経験する生命教育の授業だったのだ。
 
母親になることは、生活の中により多くの、制御不能な変数が生まれることを意味する。大きな挑戦だが、尚潔さんの中にはより大きな勇気が生まれたという。人生は一つの選択肢だけではない。どのような状況においても、私たちは自分の気持ちに忠実に、決定を下すことができるのである。

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