2025/05/29

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文化・社会

32年前の予言?短編小説『緑猴劫』が描く世界

2020/05/11
台湾で32年前に出版された短編小説集『海天龍戦』が、現在のコロナ禍を「予言」したものだとして注目されている。今年4月、時報出版から再出版された。(中央社)
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界規模で日常のルールを破壊する中、アルベール・カミュの『ペスト』や、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』といった文学作品が再び注目されている。疫病を取り上げた小説として最も著名なこの2冊は、若い読者をも引き付けている。マルケスが『コレラの時代の愛』で描いたのは男女の愛であり、それは疫病のような愛だった。一方、カミュが『ペスト』で描き出したのは人々を引き離し、隔絶する、医学と政治の間で膨張する疫病だ。この本と同じ情景がまるで時空を超えたように、2020年のコロナ禍で再現されている。
 
台湾でも32年前、一冊のSF小説によって現在のコロナ禍が「予言」されていた。葉言都さんの短編小説集『海天龍戦』のうち、特にそこに収録されている短編小説「緑猴劫」には、中国の武漢ウイルス研究所を思わせるようなラボが出てくる。
 
『海天龍戦』は、台湾のSF小説ファンにとって傑作とされる短編小説集で、1979年と2008年に別々の出版社から出版された。今年4月にはさらに別の出版社によって、3度目の出版が実現した。32年前の初版と全く内容は同じだが、書名が『緑猴劫』に変更となった。
 
短編小説「緑猴劫」は小さな島国を舞台にした物語だ。海の向こうの強大な敵国「加西亜」に対抗すべく、特定のサルのみが持つ、致死率90%の伝染病の病原体を使って生物兵器を開発するというストーリーだ。
 
「敵はこの生物兵器の攻撃を受けると、一定の時間を掛けてその病原体を調べ、治療法とワクチンを開発する。しかし、そのうちに敵国の国民の大部分は死んでしまうだろう」、「彼らが接触したことのない未知の病原体を製造し、一方で自分たちの国民を守ることのできるワクチンを作ることさえできれば、この生物戦で勝つのは我々のほうだ」―島国の研究チームの計画は万全だった。しかし(当然ながら?)、ちょっとしたミスによって事態は制御不能となってしまう。
 
この短編小説集は生物兵器を使った生物戦や気象戦争など、さまざまな戦争の方法を描いている。さらには男尊女卑の観念を利用し、生育抑制剤を使って種族の全滅を企てる物語なども含まれている。32年前に書かれたSF小説だが、32年後の現在、それはほぼ現実のものとなっている。物語に出てくる島国や敵国、それに離島が「本島で歓迎されない」ような重い刑罰を受けた人が収容される刑務所や、放射性廃棄物を押し付けられる設定などは、台湾の現状と極めて似ている。このため、台湾の読者はより特別な思いを持つだろう。
 
作者の葉言都さんは1949年、澎湖で生まれた。現在は私立東呉大学歴史系(=歴史学科)で助理教授を務めている。
 
 

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