1867年に発生した「ローバー号事件」をモデルにした公共テレビの大河ドラマのタイトルが、当初予定していた『傀儡花(Lady the Butterfly)』から『斯卡羅』へと変更になった。現役の医師として活躍する小説家、陳耀昌さんの同名小説『傀儡花(邦訳:フォルモサに咲く花)』を原作としたものだが、「傀儡」という言葉に抵抗を感じるという先住民族の人々の声に配慮した。
監督を務める曹瑞原さんは11日、ドラマのタイトル変更を発表する記者会見を開いた。査馬克・法拉屋楽(Camake Valaule)さん、主人公の蝶妹を演じる女優の温貞菱さん、フランス出身で台湾の芸能界で活躍するファビオ・グランジョン(Fabio Grangeon、中国語名は法比欧)さん、周厚安さん、黄健瑋さん、黄遠さんなどの主な役者が衣装姿で同席した。小説『傀儡花』の作者である陳耀昌さんのほか、恒春半島南端を統治していたパイワン族の貴族「斯卡羅」の頭目Bungekaic Garuljigulj(中国語名は藩文杰)の直系の末裔である潘佳昌さんも同席した。
物語の舞台となるのは1867年の台湾。米国商船「ローバー号(Rover)」が台湾最南端の恒春半島の沖合で難破する。海岸に流れ着いた乗組員たちは、台湾先住民が暮らす領地に誤って入り込む。そして、侵入者だと誤解した先住民族たちの首狩りに遭って殺害される。俗に言う「ローバー号事件」であり、米国による台湾出兵を招いた。最終的には、アモイの米国領事であったチャールズ・ルジャンドル(Charles Le Gendre、中国語名は李仙得)が調査のため台湾へ向かい、「斯卡羅」の大股頭(=酋長)であるTou-ke-tok(中国語名は卓杞篤)と平和条約「南岬之盟」を結ぶ。「南岬之盟」は台湾が初めて外国と結んだ平和条約となった。
撮影チームは準備期間から撮影期間に至るまで、先住民族の人々が「傀儡」の2文字に不快感を覚えていることを感じていた。このため小説の原作者である陳耀昌さんの同意を得て、集落の代表者や関係者から広く意見を聞いた上で、最終的には住民による投票を行い、ドラマの名称を『斯卡羅』に変更することを決めた。これにより、原作者が伝えようとした、台湾におけるエスニックグループ同士の「和解と共生」、「多様な文化と多様な歴史観」という精神を、より浮き彫りにしたいと考えている。
ドラマ『斯卡羅』は昨年8月、屏東県でロケをスタートした。台湾南部の屏東県や台南だけでなく、北部の新北市、苗栗県などでも135日間に渡って撮影を行った。
ロケ初日は台風に遭遇し、その後も山おろしや大雨、突然の寒さや暑さにも見舞われた。厳しい天候と向き合った撮影の日々について曹瑞原監督は「たった4か月半の撮影で、四季が一巡したような天候の変化を経験した」と振り返った。また、「今回の撮影では、先住民族から大地や自然に対する敬意を払うという姿勢を学んだ。本当に困難な撮影だったが、祖霊たちが私たちを見守り、試練を克服させてくれたことに感謝している」とも語った。
このドラマで重要な人物となるのが「斯卡羅」の大股頭Tou-ke-tok(中国語名は卓杞篤)だ。演じる査馬克・法拉屋楽(Camake Valaule)さんは、実は演技は全くの素人。曹瑞原監督が直々に頼み込んで出演が実現した。
査馬克・法拉屋楽(Camake Valaule)さんは、パイワン族の子どもたちが通う泰武国小(=小学校。屏東県泰武郷泰武村)の合唱団「泰武古謡伝唱隊」の歌唱指導者として知られる。「泰武古謡伝唱隊」は世界各地から招聘され、公演を行う有名な合唱団。世界三大テノール歌手の一人、ホセ・カレーラスさんから共演の指名を受けたほどの実力を持つ。
査馬克・法拉屋楽(Camake Valaule)さんはパイワン族の言葉を流暢に操ることができる。監督の熱意に打たれたという査馬克・法拉屋楽(Camake Valaule)さんは「この機会に、自分の土地のために話したい。自分の目によって、もっと多くの人々がこの土地を見られるように手助けしたい。パイワン族にはまだ認定されていないグループがある。子どもたちに古謡を教える過程では、自分が誰なのか、パイワン族のどのグループの子どもなのかを探す作業も行っている。このドラマを通して、この土地には『自分は誰なのか』を探る物語もあることを知ってもらえるだろう」と話している。
公共テレビの大河ドラマ『斯卡羅』は2021年の放送を予定している。