2025/05/15

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当代伝奇劇場の呉興国氏、『李爾在此』の台湾公演に区切り

2020/07/07
当代伝奇劇場の芸術総監を務める呉興国さん(右)は6日、シェイクスピアの四大悲劇の一つ『リア王』をベースにした自身の最高傑作『李爾在此(=リア王はここに)』を9月25日から27日まで国家戯劇院で、10月3日から4日まで台湾南部・高雄市の衛武営国家芸術文化中心で上演すると共に、この公演終了後、台湾での公演に区切りをつけることを明らかにした。写真は弟子の朱柏澄さん。(中央社)

当代伝奇劇場(Contemporary Legend Theatre)の芸術総監(アートディレクター)を務める呉興国さんは6日に開いた記者会見で、シェイクスピアの四大悲劇の一つ『リア王』をベースにした自身の最高傑作『李爾在此(=リア王はここに)』について、初演から20年の節目を迎える今年の公演を最後に、台湾での公演に区切りをつけることを明らかにした。

 

呉興国さんによると、新型コロナウイルスの影響を受けて当初予定していた『凱撤(Julius Caesar)』(シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』を原作とした作品)の公演が中止となった。『凱撤』は海外巡回公演の一環で、台湾でも上演されることになっていた。このため、自身が一人10役を演じる『李爾在此』を今年9月に国家戯劇院(台湾北部・台北市)で、10月に台湾南部・高雄市の衛武営国家芸術文化中心で演じる時間が生まれた。

 

『李爾在此』はシェイクスピアの作品『リア王』をベースに、呉興国さんが舞台化し、監督兼主演を務める作品。「戯」、「弄」、「人」の3幕から成り、京劇の歌い方や所作を取り入れて『リア王』に新たな解釈を加え、人間性の矛盾やジェネレーションギャップに迫るものだ。仏パリのオデオン座での初演以来、現在に至るまで20カ国50都市で上演。いまでは呉興国さんの代表作となっている。

 

呉興国さんは記者会見で、「この演目は私一人が舞台で10人の役柄を演じなければならない。体力的にも限界で、多くのシーンで実際に動きがついていけなくなっている。自分はこの演目をしっかりと後世に伝え、弟子に演じてもらいたいと考えている」と話し、今年を最後に台湾での公演に区切りをつけることを明らかにした。

 

20年前に『李爾在此』が誕生したとき、呉興国さんは人生最大のスランプ状態にあった。京劇を主軸に近代的な演出を加えたパフォーマンスが、師の顔に泥を塗る行為だと批判されていたからだ。「1人10役でこの作品を演じると決めたとき、私は自分を完全にさらけ出すことにした。難しいことだったが、私は自分と伝統全体としっかりと向きあわなければならなかった」と呉興国さんは振り返る。

 

呉興国さんは京劇役者の周正栄さんに師事し、京劇の「武生(=アクションを主軸とする男性役)」からアクションも歌もオールマイティにこなす「文武老生」まで幅広く学んだ。それでも自分の限界に挑戦したいと考え、雲門舞集(クラウド・ゲート)でコンテンポラリーダンスを学び、京劇と西洋の舞台劇、それに舞踊を融合させた作品作りに取り組んだ。このため、伝統的な京劇に専念すべきだと考える師匠の周正栄さんとは意見が衝突することも多かった。周正栄さんが亡くなるまで二人が和解することはなかった。『李爾在此』の中で、グロスター伯が自分の実の子どもであるエドガーと、私生児であるエドマンドと向き合うシーンがある。呉興国さんはこのシーンでいつも師匠のことを思い出すという。

 

また、『李爾在此』の後継者について呉興国さんは、「学びたい人がいれば誰でもいい。しかし、私はその人の身体と心が本当に学びたがっているかどうかを確認する。それでも学びたいという人がいれば、すべてを教え尽くす」と語った。

 

呉興国さんはまた、「現代劇の脚本と現代のパフォーマンスで京劇を演じたら、それは京劇ではないというのは間違っている。バレエを学ぶ人はコンテンポラリーダンスを学ぶこともできる。体が永遠にバレエの基礎を覚えていればそれで良い。京劇も同じだ」とも述べた。

 

呉興国さんはこの記者会見の開始前に、弟子の朱柏澄さんに化粧を施す様子をメディアに公開した。呉興国さんは「化粧が伝統的であってはいけない。化粧を施したあとは彫刻のようでなければならない。自分の精神を描き込むことで、役柄の表現に張力を持たせることができる」と話した。

 

呉興国さんの『李爾在此』は9月25日から27日まで国家戯劇院で、10月3日から4日まで台湾南部・高雄市の衛武営国家芸術文化中心で開催される。

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