台湾では旧暦7月を「鬼月」と呼ぶ。旧暦7月1日に「鬼門」が開き、月末に「鬼門」が閉じるまでの1か月間、先祖や「好兄弟」と呼ばれる無縁仏などの霊がこの世に戻って来ると信じられている。
台湾各地で祭りのリレー
今年は新暦8月19日が旧暦7月1日に当たる。旧暦7月の1か月間、台湾各地でさまざまな伝統行事が行われる。例えば台湾北部・基隆市老大公廟の「開龕門」、台湾北東部・宜蘭県の「放水燈」、金門(離島)の「拝海掛燈」、台湾最南端・屏東県恒春の「搶孤」、台湾北部・新竹市の「都城隍賑孤」、台湾南部・台南市普済殿の「搶孤」、台湾北部・新竹県の「義民節」、台湾中南部・嘉義県民雄郷の「大士爺普」、宜蘭県頭城の「搶孤」など、この時期に行われる伝統行事は枚挙にいとまがない。あの世から戻ってくる霊のために、まるで台湾各地で祭りのリレーを行うようなものだ。あの世の霊を供養する「普度」という風習は、霊を擬人化して兄弟や友人と見なし、ご馳走でもてなすという行為である。それがこの行事の過程に温もりと優しさを添えている。
道教と仏教の融合
「普度」という風習は、道教の「三元節(旧暦7月15日)」と仏教の「盂蘭盆会」が融合したものである。また、台湾は新天地を求めて中国大陸から渡ってきた先人たちによって開墾された。先人たちはその過程で風土病と戦い、荒れた土地を耕し、出身地別のグループによる対立や戦いを繰り返し、台湾のために命を落としてきた。こうした先人たちへの感謝の気持ちと、儒教の「慎終追遠、感懐先賢(=終りを慎み遠きを追い、先人を偲ぶ)」の精神が加わり、台湾特有の「普度」の風習と文化が生まれた。
私普vs.公普
旧暦7月に行ういわゆる「中元普度」は、その規模によっていくつかのプロセスに分けることができる。まずは旧暦7月1日の「鬼門開(=鬼門が開く)」、旧暦7月15日の「十五中元」、そして月末の「鬼門関(=鬼門が閉じる)」の直前である。各家庭の入口にお供え物を並べ、「好兄弟」に供える。集団住宅、商業ビル、会社などで行うものも含め、これらを「私普」と呼ぶ。これに対して大きな廟宇、市場、同業者組合、「宗親会(=同姓組織)」などが行う大型の「普度」は「公普」と呼ぶ。いずれも「好兄弟」たちをもてなすための儀式であり、それぞれの家庭の祭祀の習慣や、現代生活の利便性などを考慮し、どちらに参加するか選ぶことができる。
お供え物を正しく選べば「好兄弟」もご満悦
「普度」で最も頭を悩ませるのがどんなお供え物を用意するかだろう。まず基本として押さえておきたいのが洗面用品だ。例えば洗面器、タオル、歯ブラシ・歯磨き粉、石鹸、ヘアメイク用品などは、「好兄弟」が食事前に身だしなみを整え、手を洗えるようにするための必須アイテムだ。それから生姜と塩(あるいは生姜、砂糖、塩、豆など)は、山の幸と海の幸を象徴するものだ。ほかにもこだわりのある人は「三牲(3種類の動物のお供え物)」、「菜碗(=小皿料理)」、「乾料(=乾物)」などを用意する。利便性を追求するなら各種の缶詰、即席めん、調味料、乾物、スナック菓子などで代用することも可能だ。
テイクアウトにも配慮
少し特殊なお供え物としては「孤飯菜湯」というものがある。これは釜いっぱいに炊いた白米と「空芯菜(くうしんさい)」のスープを指す。「空芯菜」は「有形無心(=形はあるが芯は空洞)」の野菜であり、この家のあるじが「真心を込めておもてなしし、長く引き留めるつもりはない」という気持ちを「好兄弟」に伝えるという意味がある。また、お供え物に適した果物としては「新鮮なリュウガン(龍眼)」が良いとされている。これはリュウガンの枝を「担ぎ棒」に、リュウガンの殻を「ふろしき」にして、「好兄弟」たちがお供え物を「テイクアウト(お持ち帰り)」できるようにするためだと伝えられている。
「鬼月」にはタブーもたくさん
旧暦7月になると、お年寄りから「やってはいけない」ことをあれこれ言われるだろう。例えば水辺で遊ぶこと、深夜に出かけること、夜に口笛を吹くこと、むやみに人の肩を叩いたり、人の名前を呼んだりすること、それに夜、衣服を外乾しすることなどはいずれも「タブー」とされている。しかし、これらはどれも安全に生活を送るための知恵でもある。こうした「タブー」を作って生活に縛りを設けることは、より慎重な方法で「好兄弟」たちへの配慮を示すことにもなる。
旧暦7月の普度文化は、台湾の歴史の積み重ねによって形成されたもので、台湾特有の風土や民情、そしてこの土地に対する思いを反映している。伝統文化を通して、先人が残してくれた生活の知恵を学ぶと同時に、人情味あふれるこの風習をぜひとも後世に残していかなければならない。