台湾の大手電力会社である台湾電力公司は近年、文化芸術分野への参入を進めている。同社は2019年、パブリックアートで文化財の活性化を図ることを目指し、「中秋節(旧暦8月15日。2019年は新暦9月13日)」に合わせ、新北市(台湾北部)にある鉱山施設跡「十三層遺址(=遺跡)」のライトアップイベントを行った。このイベントのため、新北市瑞芳には1万人を超える人が集まった。この「十三層遺跡のライトアップイベント」が10月1日、日本のグッドデザイン賞を受賞。10月8日には続けて、米国のMUSEデザイン賞を受賞したことが伝えられた。
「十三層遺址」はかつて「水湳洞選錬廠」と呼ばれ、日本占領時代に作られたアジア最大の錬金施設だった。1980年代後半、採掘量の減少と台湾金属鉱業股份有限公司の業務停止に伴い、台湾電力公司が「十三層遺址」の管理を引き継いだ。この土地はその後、土壌に金属物質が含まれていることから「汚染控制場址(=汚染源)」の指定を受けたものの、文化資産としての価値は高く評価されることとなり、新北市の歴史建築に指定されたほか、台湾の「世界文化遺産潜力点(=世界遺産候補地)」にも加えられた。
台湾電力公司は昨年、米ニューヨーク「自由の女神」など有名スポットの照明を手掛けたことで知られる照明デザイナーの周錬氏、芸術家の何采柔さん、有名な照明デザインチームである一隠照明設計顧問(YI.ng Lighting Design Consultant)と協力し、30年以上、廃墟となっていた「十三層遺跡」のライトアップイベントを実施した。このイベントは今年6月、北米照明学会 (IESNA)から賞を授与されたのに続き、今月1日には5,000件近い応募作品の中から日本のグッドデザイン賞「街区・地域開発」部門を受賞した。今月8日には米国のMUSEデザイン賞を受賞。しかも、文化財デザイン(Cultural Heritage Design)部門のプラチナ賞と、ランドスケープデザイン(Landscape Design)部門の銀賞のダブル受賞となった。台湾電力公司は、「国際社会からの評価を得たことは非常に光栄で、これからも電力の安定供給を続けながら、企業として多様な活動を行っていきたい」とコメントしている。
なお、台湾電力公司は「十三層遺跡」を皮切りに、社会各界との意思疎通を図り、文化資産のサステナビリティを目指す活動を積極的に進めている。現在は「金瓜石神社」や「太子賓館」などの文化財の修復を進めている。同社は2021年までに修復工事を終え、AR(拡張現実)技術との融合により、参観者が時空を超えて当時の神社の雰囲気を味わえるようなイベントを実施することを計画している。これにより「十三層遺跡」のみならず、金瓜石地域全体の観光発展に寄与したい考え。