台湾北部・台北市の名刹、龍山寺に「独木大鼓(=一本の木で成形された大きな太鼓の意味)」と呼ばれる大太鼓がある。108の煩悩を取り除き、新たな一年を迎えるという意味で、毎年除夜に108回撞かれる。龍山寺に設置されて62年になるこの大太鼓が、このほど国立台湾博物館に「返却」されることになった。専門家による科学的調査や修復を受けた後、「収蔵品」として新たな人生を送る。
大太鼓は、日本統治時代の昭和15年(1940年)、台湾技術協会の発起により作られ、台湾神社(現在、圓山大飯店が建つ場所)に奉納されたもの。戦後の1949年、台湾神社の跡地に「圓山招待所」が設置されると、台湾省建設庁公共工程局と台湾省立博物館(国立台湾博物館の前身)は台湾神社に奉納されていた大太鼓やウシの銅像をはじめ、残されていた文物を採寸の上、保存することにした。大太鼓は国立台湾博物館に一時収蔵された後、1960年より龍山寺に貸し出され、そのままとなっていた。
龍山寺の関係者は、近年除夜に叩く大太鼓の音に異変を感じており、専門家によるメンテナンスを受けて寿命を延ばせないかと考えていた。しかし、大太鼓は文化財としての身分も持ち、修復作業にはおそらく数年の歳月が掛かる。龍山寺は国立台湾博物館と話し合った末、大太鼓を「返却」することで一致した。搬出と修復については国立台湾博物館にゆだねるとしている。
国立台湾博物館はすでに、専門の修復チームに委託して、この太鼓の全面的な調査と記録を進めている。搬出時の破損を避けるため、応急措置として熱可塑性樹脂で固定するなど、搬出に向けた準備も着々と進んでいる。龍山寺側の準備状況と天気を見た上で、今年11月上旬にも搬出したい考えだ。
なお、搬出を前に、龍山寺では今月24日、除夜にしか撞かないこの大太鼓を、長年の慣例を打ち破って特別に撞いた。この日は旧暦9月19日で、観世音菩薩が出家した日に当たる。信者たちに大太鼓の最後の音を聞かせると同時に、専門家に音声及び映像を記録してもらうことで、龍山寺にあった大太鼓の歴史を残し、今後の分析・研究の参考にするのが目的だという。