広く知られている黄虎旗の虎は、これまで旗の正面に描かれた姿だけであった。裏側は表装されたために、厚い紙で覆われて見えず、旗は掛け軸の絵のように鑑賞されていたのである。今回の修復で、驚くべきことに、裏側にもう一頭、やや異なる姿の虎が描かれていることが発見された。輪郭は鏡で映したように左右対称ではあるが、身体のしま模様の密度や、雲状の模様が微妙に異なっている。また、特筆すべきは、正面の虎の瞳は円形であるのに対し、裏側のものは三日月形に湾曲していたことである。これは、ネコ科の動物が、昼間と夜で瞳の形が変わることを写実的に表しており、極めて興味深い。或いは、ある意味で「昼と夜」、「陰と陽」といった二元対立の寓意が隠されているとも考えられる。
この旗は、台湾の歴史において、激動の時代に生まれた、巨大で色鮮やかな旗である。1895年当時、日本の統治に甘んじることをよしとしない、台湾の名士たちが台湾民主国の成立を宣言し、黄虎旗をその旗印とした。ほどなくして、当時の旧日本軍が基隆に攻め入り、黄虎旗は戦利品として奪取され、皇居の御府の一つ「振天府」に納められた。日本の統治が終わり、台湾が中華民国に復帰した「光復」ののち、この旗の行方が探されたが、日本側は「振天府」は焼失したと言明した。
明治42(1909)年の「日日新報」の記載によれば、台湾総督府博物館(国立台湾博物館の前身)が、宮内省(日本の宮内庁の前身)の許可を得て、画家の高橋雲亭氏に依頼し、オリジナルを模写して展示用のものを作成させた。この模写本は、「オリジナルと寸分たがわず、見た者は本物と見まごうほど」であった。年月を経た布の様子や、顔料で表現した色彩、破損個所(臀部〔でんぶ〕や後ろ足、尻尾がかけている)など、すべてオリジナルと同じように再現された。ゆえに、台湾博物館の所蔵する黄虎旗は模写本ではあるものの、オリジナルが行方不明となっている現時点では、現存する唯一の、かつ形状が最もオリジナルに近い黄虎旗なのである。

修復された黄虎旗の展覧会は、国立台湾博物館で2013年4月21日まで開催されている。ただ、100年以上を経た極めてもろい織物を保護するため、黄虎旗の展示は2013年3月17日までとなっている。黄虎旗の展示が終わってからは、質の高い複製品とデジタル影像を使った展示が行われる。詳しい情報は博物館の公式サイト(中国語)http://www.taiwanmuseum.tw/で紹介している。