新型コロナウイルスが経済に与える影響は深く幅広い。経済対策を「消費券」と「酷碰券」(クーポン券)のどちらにするのかで与野党がいまだに議論を続けている中、影響を真っ先に受ける大手ホテル3社が連携、一足早く独自の「消費券」を発行して支え合うと共に内需の刺激を図っている。
この3社は老爺酒店集団(HOTEL ROYAL-NIKKO TAIPEI)、雲朗観光集団(LDC Hotels & Resorts)、凱撒飯店連鎖(Caesar Park Hotels & Resorts)。観光業は今回のウイルス拡大で深刻な被害をこうむっている産業の一つであることから、これら3社は今年3月末に共同で、金額にして1億台湾元(約3億5,400万日本円)の「CLR聯合通用券」(以下「通用券」)をグループ内の企業で働く職員たちに配布した。職員数は合わせて約1万人。「通用券」は1人1万台湾元(約3万5,400日本円)で、3社が運営するホテル合計30店舗での宿泊や飲食に利用できる。
本来ならばライバル同士である同業者が協力し合うという画期的な取り組みについて、雲朗観光集団の盛治仁総経理(社長)は報道機関によるインタビューの中で以下のように答えている。盛治仁氏は学者から閣僚、ホテルのCEOと様々な経験を積み、今では雲朗観光集団の総経理を務めている。
問:感染症の影響が広がる中、雲朗観光集団はどのように対応し、変化していくか。
答:観光産業は被害が特に大きい産業だ。雲朗の張安平CEO(台湾セメントの董事長=会長)は危機管理を得意としており、早くから様々な手を打ってきた。1月末の旧正月休みにはまずビデオ会議を開いて対応を検討、在宅勤務のシミュレーションも行った。また、会社として従業員が出国しないよう求め、予定していた旅行を取り止めることで生じる航空チケットの損失は会社が負担することにした。そのころから会社ではマスクの着用や検温を始めたほか、旧正月明けに本社は1週間の在宅勤務を行った。体調に不安がある場合は在宅勤務するということだ。
自分はマネージャーとして、「無給休暇」(無給の一時帰休)など支出を減らす策をまとめたが、張安平CEOはそれには見向きもせず、10億台湾元(約35億4,000万日本円)の増資を断行してこの危機を乗り越えることにした。その後2月、3月となり感染状況が深刻化すると、雲朗観光集団の辜懐如董事長がビデオメッセージで従業員たちに、減給や「無給休暇」はしないと直接伝え、団結して難局を乗り切るよう呼びかけた。
現在、我々は従業員の訓練を強化しているほか、ボランティア活動も行っている。今の雲朗観光集団の業績はひどいものだが、張安平CEOは交通部観光局(日本の観光庁に相当)の補助金は申請しない。中小のホテルがそれによって補助金からあぶれてしまうことを避けるためだ。張CEOは、「我々にはまだ力がある。(補助金は)まず必要としている人に行きわたるよう。互いに助け合うことは当然すべきだ」と話している。
問:業績の改善に向け、どのような取り組みを進めるか。
答:2月中旬にいくつかの業者と食事会を開き、皆で打開策を考えた。その中である出席者から、「ホテルの客室稼働率が10%まで落ちている今、従業員の国内旅行を奨励し、関連のビジネスチャンスを生み出す」という意見が出て、我々ホテルいくつかが互いに助け合ってみてはどうかということになった。しかしそれにはまず巨額の資金が必要だ。最終的には3人の経営者(老爺酒店集団の林清波総裁、雲朗観光集団の張安平CEO、凱撒飯店連鎖の林鴻道董事長)が決断し、3月末に3社が共同で1億台湾元(約3億5,400万日本円)相当の「通用券」を発行、それぞれのグループ企業である互助営造、台湾水泥(台湾セメント)、嘉泥建設開発、宏国集団などの従業員1万人に配布した。1人1万台湾元(約3万5,400日本円)だ。「通用券」は現金と等しく、3社が経営するホテル30カ所での宿泊と飲食などの支払いに利用できる。1回の旅行に交通費、食事代、ショッピングなどを加えれば「通用券」の5倍の経済効果があるはずで、業界に5億台湾元(約17億7,000万日本円)のキャッシュが流れ込むことになる。自力で国内消費を刺激するわけだ。
今回、各社がブランドの違いを超え、力を合わせて「団体戦」を戦えているのは大局を見据えて自分たちの利益にこだわっていないからだ。「通用券」による売り上げがどのように配分されるかもわからない。従業員がどのホテルを利用するかは予想できないからだ。「通用券」に印刷される各ホテルの名前の順番(CLR=凱撒、雲朗、老爺)から記者会見を開く場所、誰が発言するかまで全てくじ引きで決めている。
新型コロナウイルスが広がる前には思ってもみなかったことだ。ホテル業は完全な競争で、常に競争が協力より重要だった。しかし今はみな刀を手放し、共に助け合いながら生き残ろうとしている。カギは3人の経営者が持ち出しで従業員への投資を強化し、優れた人材を失わないよう努力していることだ。
問:次の一手としての計画は?
答:「通用券」が好評なので、4月半ばには様々な企業に販売できるようにした。より多くの企業がこの輪に加わり、「通用券」を買い取って自社の従業員に配布すれば、共に安全と消費を台湾に留め置けるというわけだ。現在の「通用券」は額面が1,000台湾元(約3,540日本円)だが、大量に購入する場合はディスカウントする。1,000枚以上なら15%引き、5,000枚以上なら最高で25%引きになる。参加するグループの独自のサービスプランもあるので、ディスカウントにさらにディスカウントが重なることになる。
大手企業が参加してくれればビジネスチャンスもより大きくなろう。現時点では100社あまりから問い合わせを受けている。中には1万枚あまりの購入を希望する企業もあり、我々としても大変喜んでいる。将来的には「通用券」を一般の消費者に販売することも検討する。
新型コロナウイルスが経済に与える影響は深く、幅広い。しばらくの間、企業は赤字となり、倒産や失業率の上昇も起きるだろう。かつての景気を取り戻すにはかなりの時間がかかるはずだ。しかし我々が受け身の姿勢で、ウイルスの終息や政府による救済をただ待っていることは出来ない。これまで以上に努力してブルーオーシャン(競争の無い未開拓市場)の開拓に取り組まなければならない。そのため「共好」(共栄)の概念で観光業に影響を与えていきたい。今回の感染症は多くのことを変化させた。「通用券」での協力だけでなく、我々3つのグループはさらに「共同調達と共同マーケティング」などの実現を目指している。暗闇の後には必ず光が見えるのだから。