ツマジロクサヨトウ(中国語では秋行軍蟲)の被害が拡大している。ツマジロクサヨトウはアメリカ大陸の熱帯および亜熱帯地域の原産で、2016年1月にナイジェリアで初めて発見された後、世界各地に拡散した。台湾でも2019年6月に初めて発見された。国連食糧農業機関(FAO)によると、ツマジロクサヨトウの寄生植物は350種を超える。行政院農業委員会(日本の農林水産省に相当)はすでにツマジロクサヨトウの幼虫が寄生する可能性の高い農作物へのモニタリングや耕作地での巡回調査を強化している。しかし現時点で、台湾ではトウモロコシ、コーリャン(高梁)、バミューダグラス、ハトムギ、アワ、チカラシバの累計6種が被害を受けていることが分かっている。
台湾東部・花蓮県ではトウモロコシの作付面積が約1,000ヘクタールに達する。そのほとんどがツマジロクサヨトウの被害を受けている。研究機関や農業行政機関が行った実験の結果、タマゴコバチ科の寄生バチがツマジロクサヨトウの密度を抑制する効果があることが分かっている。そして、台湾で唯一、タマゴコバチ科の寄生バチの養殖を行っている場所がこの花蓮県にあるのだ。それが花蓮観光糖廠(花蓮県復興郷糖廠街19号)と呼ばれる製糖工場だ。
実は台湾では戦後から、台湾製糖公司によってタマゴコバチ科の寄生バチの大量繁殖に関する研究が積極的に行われてきた。台湾では1970年代に至るまで、サトウキビ畑でサトウキビメイガなどの害虫防除にタマゴコバチ科の寄生バチが大量に利用されており、工場内にはそのための養蜂室まで設置されていた。1979年から1980年にかけて会社の方針が変わり、台湾各地の製糖工場に設置されていた養蜂室は順次閉鎖され、同社は製糖業から観光業への転換を目指すようになった。
かつて台湾東部で重要な製糖工場であった花蓮糖廠は、その設備や技術を活用して観光の目玉とすることに取り組んだ。このため全国の製糖工場が相次いで養蜂室を閉鎖する中にあって、花蓮糖廠だけはここを学校などの課外活動の場として活用するため、養蜂室を残すことを決めたのだった。こうして花蓮観光糖廠は、いまでは台湾で唯一、タマゴコバチ科の寄生バチを養殖する製糖工場となっている。
ツマジロクサヨトウの被害を受けているトウモロコシ畑では、寄生バチの卵を大量に付着させたシートを、作付けして2~3週間が経過したトウモロコシの葉の裏にステープラーなどで固定させる。孵化した寄生バチは鱗翅目(りんしもく)の害虫、つまりトウモロコシの害虫となるアワノメイガや、ツマジロクサヨトウなどの天敵となる。シート1枚から羽化する寄生バチは1,000匹ほどであるため、トウモロコシ畑1ヘクタール当たり160枚を設置する必要がある。また、トウモロコシの成長期に4回、シートを設置しなければならない。つまり、花蓮県の農民たちがこの方法で害虫防除を行う場合、合計64万枚のシートが必要と言うわけだ。
花蓮区農業改良場の張光華副研究員によると、この寄生バチの卵シートは、花蓮観光糖廠で毎年約20万枚生産・販売しているものだが、生産の過程で大量のガイマイツヅリガ(代用宿主)を飼育しなければならない。これにはかなりの時間と労力が必要で、すでに労働力不足の問題が生じている。
張光華副研究員によると、ガイマイツヅリガの採集は早朝に行う必要がある。ガの鱗粉を吸い込んだり、接触したりしないように作業員は防護服と防塵マスクを着用して飼育室に入る。手に持った毛布で、羽化した成虫を包み込むようにして集めるのだが、その過程は煩雑だし、決して気分の良いものではない。このため最近、花蓮区農業改良場と私立中国文化大学が提携してさまざまな自動化設備を開発し、ツマジロクサヨトウの生物学的防除の効率を高めている。これらにより、寄生バチの卵シートを年間20万枚以上生産できるようにしたいと考えている。
花蓮区農業改良場によると、海外ではツマジロクサヨトウに対して化学的防除を行うのが一般的だ。しかし、有機栽培や環境に優しい方法でトウモロコシを栽培している農家は、現在のところ多くが安全で人体に無害、さらには環境にも優しいBT剤を使用している。