台湾最南端に位置する屏東県はかつてビンロウ(檳榔)の産地として知られていた。ビンロウはヤシ科の植物で、台湾ではその種子に石灰などを加え、「噛みタバコ」に似た使われ方をされる。しかし、根があまり張らないビンロウは保水性が低く、土にも悪影響があるということで、屏東県は近年、県内の農家に対して他の経済作物への転作を推奨している。そこで最も注目されているのがカカオとコーヒーだ。
カカオは熱帯植物で、アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカなどの国々が産地として知られる。高温多湿の環境で育つことから、台湾では屏東県が最も作付けに適した地域と言われている。専門家や学者などがカカオの栽培技術や種苗の改良を重ねた結果、現在、屏東県におけるカカオの作付面積は200ヘクタールを超える。なお、そのほとんどが台湾第二のエスニックグループである客家(ハッカ)の人々が多く住む地域に集中している。屏東県の作付面積は、当然ながら台湾トップだ。
カカオ豆はチョコレートの主要な原料となる。屏東県で産出される質の高いカカオ豆は、すでに有名なチョコレートブランドをいくつも生み出している。例えば台湾初のチョコレート鑑定士として知られる許華仁さんが屏東県で立ち上げたブランド「福湾巧克力(フーワンチョコレート)」は、台湾を代表するチョコレートブランドと呼ぶにふさわしい。
「福湾巧克力」が使用するカカオ豆は屏東県産だ。許華仁さんが作ったチョコレートは2018年、チョコレートの世界大会「インターナショナル・チョコレート・アワード(International Chocolate Awards, ICA)」で金賞5個、銀賞2個、銅賞1個を獲得。翌2019年のICAでも「台湾1号屏東黒チョコレート62%(Taiwan No.1 62%)」が「Plain/origin dark bar categories(プレーンダークバーチョコレート)」部門の最高賞「Best in competition」を含む金賞3個を獲得するなど健闘した。「福湾巧克力」は徐々に知名度を上げ、2020年には日本の阪急百貨店うめだ本店(大阪)の「バレンタインチョコレート博覧会2020」への出展も果たした。
「福湾巧克力」だけでなく、屏東県内埔郷の「曽志元巧克力(Zeng Zhiyuan)」も2018年、屏東産カカオ豆を使ったダークチョコレートでICAに出場して金賞4個を獲得した。「曽志元巧克力」の強みはダークチョコレートで、カカオ含有量60%から100%までさまざまな商品を取りそろえているが、いずれも均一価格で販売しているのが特徴だ。
カカオ豆は、誰にでも愛される美味しいチョコレートの原料として使われるだけでない。スキンケア用品にも変身することができる。屏東県潮州鎮にある林后可可農園では、カカオ豆に含まれている油脂成分をリップクリームやフェイシャルマスクなどのスキンケア用品に応用し、カカオ産業の幅を広げている。植物由来の天然油脂だから、子どもにも安心して使えるという。
デパートなどで台湾産カカオ豆を使ったチョコレートやスキンケア用品を見かける機会があれば、ぜひ手にとって試してみて欲しい。それは、長く続いたビンロウの生産から脱却し、新たな商機を模索する屏東県の人々の努力の成果だから。