台湾の人々が大好きな、夏の喉の渇きをいやす切り札は、「愛玉ゼリー」である。これは台湾に特有の山の幸「愛玉(または愛玉子=アイギョクシ)」で作られている。愛玉は、果実の中の種子に水を加えて揉み洗いするとペクチンが出てきて、透明で淡く黄味がかった、つるつるプリプリした愛玉ゼリーとなる。レモン汁と削った氷をかけて食べれば、暑さと渇きをいやすだけでなく、肌の美容にもよい、美味しくてヘルシーなデザートとなる。
愛玉は常緑の蔓(つる)植物で、気根で他の樹木の幹や岩の上に張り付くように自生している。台湾の海抜1,000~1,800メートルの、多雨湿潤な気候の広葉樹林で見ることができる。果実は縦長の楕円形で、表面は緑色、熟すと黄緑から紫色になり、表面には白い斑点がみられる。主な収穫期は9~12月で、生産量は中南部の嘉義県が最も多く、次いで中部の南投県となっている。以前は野生のものを採取していたが、近年は、北西部の新竹県や東部の台東県、南部の高雄市や屏東県の農家が、比較的海抜の低い山の斜面や平地で栽培するようになっている。
愛玉の由来は、20世紀初頭に著された「台湾通史」の記載にはこうある。清朝の道光元(1821)年のこと、しばしば嘉義県を訪れる中国大陸の福建省の商人が、ある日先を急いで歩いているときに喉の渇きを覚え、川の水を手ですくって飲んだ。すると、涼しさがしみわたり、体中がすっきりする感覚を覚えたのだが、よく見てみると、川のほとりに生えたつるの先に、熟れた愛玉の果実があり、それが渓流に落ち流れ出るペクチンが水面に固まっているのがみえた。商人はいくつか愛玉の果実を採って持ち帰り、布にくるんで愛玉を揉み洗いすると、果実から大量のペクチンが分泌され、瞬く間にゼリーとなった。後になって、この商人が娘の名前「愛玉」を取って、この喉の渇きをいやす食品につけ、「愛玉」として商われるようになったという。