元職業軍人で、かつて中華民国自行車騎士協会が主催するサイクリング大会「全国倶楽部聯賽」で年度優勝した経験を持つ李也剛さん。2014年に旅行社のサイクリングツアーでツアーガイドを務め、翌年には独立してスポーツマーケティング会社を立ち上げた。現在はこの会社でサイクリングツアーをサポートしている。
これまで数多くの外国人観光客のサイクリングツアーをサポートしてきた李さんは、あることを発見した。アジアの観光客は自転車で台湾を1周することを好む。なるべく1度に台湾各地の景勝地を楽しみたいと希望するからだ。一方、欧米の観光客の一番人気は台湾東部の花蓮県から台東県までのコース。大自然が生み出した景観を心行くまで楽しむ。「欧米の観光客は細かいところまでじっくり観察する。旅の途中、自撮りばかりしている台湾の観光客とは違う。彼らは自分の目で見て、沿道の景色を記憶にとどめる。たまに自転車を停めて、風景写真を何枚か撮影するだけで満足している」と話す。
数ある台湾のサイクリングコースでもやはり人気なのは花蓮県瑞穂郷を走るコースだ。ほかのサイクリングコースに比べると大して長い距離ではない。しかし、稲刈りの時期が近付くと、7~8㎞ほどの区間では稲の香りが鼻腔をくすぐるようになる。眼前に広がる黄金の稲穂がたなびく様子は、見る者をうっとりさせる。海外の観光客にとって忘れがたい思い出となる。
「自転車で何日か旅を続けていると、走行距離も長くなり、疲労もだんだんたまってくる。精神的な疲れがピークに達すると、この壁をどうやって乗り切るかが非常に重要になってくる」と李さんは指摘する。多くの外国人観光客からこんな話を聞く。たとえ梅雨の時期であっても、台湾の路上では多くの団体や自転車愛好家たちが簡易レインコートを着て、風雨にも負けずに走行を続けている。外国人観光客はそんな景色からある種の一体感を感じ、頑張って走り続けようという力を得ているという。
李さんが企画するサイクリングツアーは、毎回少なくとも車2台を随行させるようにしている。機材や補給物資を運搬するだけでなく、いつでも参加者を休ませることができるようにするためだ。このため、1つのサイクリングツアーには車2台のドライバーのほか、ツアーの先頭と最後尾に1名ずつサポートスタッフを配備する。こうした行き届いた配慮はすべて、参加者に存分に楽しんでもらうためのものだ。
李さんによると、台湾から遠く離れた外国からわざわざやってきてサイクリングツアーを楽しむ外国人観光客は、大半がビジネスである程度の成功を収めた人だったり、シニア層だったりする。ほとんどがサイクリング未経験者ではないものの、毎朝8時に出発して午後5時ごろまで1日80~120㎞を走行することは大変で、特に台湾東部から標高3,275mの合歓山・武嶺を目指すコースなどは難易度が非常に高い。それでも彼らは他人に頼ることなく、途中でギブアップすることを好まない。随行車両に乗って休みながら移動するという人もほとんどいない。「60歳、70歳のシニア女性が必死にペダルをこいで前進する姿を見ると、彼女たちの勇気に本当に頭が下がる思いがする」と李さん。
サポーターとして自らツアーをガイドすることにこだわる李さんは「自分が参加することで、参加者との距離を縮めることができる。客のことを一番に考えたサービスこそが、彼らが必要としているものだ。自分が知っている台湾の美しさを彼らに紹介すると同時に、彼らの反応を見ることで、台湾というこの土地の美しさを再認識させてもらっている」と話す。