省道「台9線」の一部「蘇花公路」の山間部の安全性を高める工事「蘇花公路改善計画(=通称「蘇花改」)」が完了し、1月6日に全線開通を迎えた。これに伴い、台湾北部・台北市と台湾東部・花蓮県を結ぶ路線では長距離バスの運行も始まった。交通部公路総局は、この路線に投入する長距離バスを「北花線-回遊号」と命名した。「北花線」の標準中国語の発音が「被発見(=発見される)」と似ており、「回遊号」は「回家(=家に帰る)」と「遊玩(=遊ぶ)」と言う言葉の漢字が1字ずつ入っていることから、この路線の美しさが人々によって「発見」され、花蓮へ帰省する人や遊びに行く人にぜひバスを利用して欲しいとの願いを込めた。
「北花線」には入札の結果、統聯客運、台北客運、首都客運の3社が参入することになった。また、3社すべてが同じ外観、同じデザインの車両を使うことで、利用者がひと目で認識できるようにした。統一デザインの車両は6日現在、合計11台(統聯3台、台北・首都各4台)投入されており、さらに74台が今後順次投入される予定だ。
交通部公路総局と経済部工業局、台湾創意設計中心の協力によって実現した統一デザイン車両は、台湾で初めて「見た目」を重視したデザインを取り入れた長距離バスだ。台湾創意設計中心(=台湾デザインセンター)の推薦を受け、車体の外観とメインビジュアルのデザインを日目視覚芸術有限公司(247Visualart)が、車体の内装は大衍国際股份有限公司(U.10 Inc)が担当。これに三坤車体有限公司、総盈汽車有限公司が加わり、地元の要素を盛り込んだ、台湾独自の美学を持つ長距離バスが生まれた。
日目視覚芸術有限公司(247Visualart)の責任者である陳普さんは、デザインについて考える前に、実際に「蘇花公路」を歩いてフィールドワークを行った。こうして最終的に、花蓮県の山の緑と海の青を融合させた青緑(あおみどり)色と、花蓮県の観光名所「七星潭」の海岸にある玉石(たまいし)をメインビジュアルにすることを決めた。青緑色の玉石8個が並んだ車体デザインは、「蘇花公路改善計画」のために作られた8つのトンネルを象徴する。公共交通である長距離バスと「蘇花公路改善計画」の工事をリンクさせるという意味のほかに、道路があるところならどこでも公共交通を利用できるという意味も込めた。
また「引き算のデザイン」により、シンプルな内装にこだわった。内装デザインを担当したU.10 Incはまず、白を基調とすることを決めた。シートに白の素材を使用し、テレビ、スピーカー、エアコンの吹き出し口は、薄い色の皮材料で覆った。窓の日よけには立体裁断式のシェードを設置。また、使用率が極めて低い頭上の荷物棚は撤去し、室内空間に高さを持たせ、快適で広々とした空間を生み出した。
このほか、ヘッドレストを可動式にし、あらゆる情報表示を中国語と英語の併記にした。色彩と材質に一貫性を持たせ、バスを正面から見ると微笑みをたたえているようなデザインにした。特に重点となったのは、車内のさまざまな表示のデザインを変更することだった。
日目視覚芸術有限公司の視覚総監(=ビジュアルディレクター)を務めた黄顕勛さんは、「これまで見てきた観光バスや長距離バスは、車内にさまざまな表示のシールが秩序なく貼られていた。もともとこれはバス業者の問題だと思っていたが、今回このプロジェクトに参加して分かったことは、業者に美学概念が欠如していることも1つの問題だが、最大の原因は法律の規定にあるということだった。大半の業者は法律の規定どおりやっているだけで、そのために、デザインが統一されていないさまざまなシールが車内に貼られることになってしまうのだ」と指摘する。
このためデザインチームは、車体の情報表示を整理することから着手した。これらを一つ一つチェックし、法律の規定と照らし合わせた。そして、不要なものや内容が重複しているものを排除した。「標楷体」、「黒体」、「円体」など混在する書体(フォント)は、分鼎科技(Arphic Technology co., LTD)が開発したフォント「晶熙黒体」に変更した。このフォントは、高速移動する車内でも識別しやすい。見た目もよりはっきりしており、ポイントを明確に伝えることができる。同時に、中国語と英語を併記することにした。
台湾創意設計中心の張基義董事長(=会長)は、台湾観光列車の改造や公路総局の「北花線」などの例から、公共交通機関を担当する政府部門の考え方の変化を見ることができると指摘する。「北花線」の事例は、デザインが従来型産業の転身を助け、台湾が誇る「MIT(メード・イン・タイワン)」を「DIT(デザイン・イン・タイワン)」に転換するものだと話す。
公路総局の林福山主任秘書は、デザイナーが当初、大胆にも白いシートを採用したいと申し出たとき、バス業者たちが一様に苦虫をかみつぶしたような顔をして、白いシートは清掃が難しいと難色を示したことを覚えている。しかし、林福山主任秘書は自信たっぷりにこう話す。「美学は行動を変えることができるはずだ。デザイン性のあるバスに乗れば、利用者は大切に使ってくれるだろう。ドライバーにとっても、『北花線』というブランドを背負って仕事をすることは、とても誇らしいことになるだろう」―と。