★★★★★
新型コロナウイルスのパンデミックは、グローバル・サプライチェーンの脆弱性を露呈した。経済ナショナリズムやロシア・ウクライナ戦争が国際秩序を揺るがし、中国・ロシア・イラン・北朝鮮による連携が進み、自由貿易と民主制度を脅かす「権威主義連盟」が形成されつつある。権威主義勢力の拡張はインド太平洋と欧州をまたいでいる。ゆえに、両地域の運命は緊密に結びついているのだ。
インド太平洋の安全保障と欧州の平和は切っても切り離すことができない。民主主義国家が威圧に屈することがあれば、「力こそ正義」の状況を招くだろう。安定を維持するには、軍事・サプライチェーン・社会の各側面でレジリエンスを高め、各国とも実力によって抑止力を持たなければならない。
台湾は第一列島線の要衝に位置し、この地域の安全保障にとって重要な基盤である。同時に、世界のハイテク・サプライチェーンにとっても不可欠な中核である。台湾は世界の半導体の約7割、先端半導体では95%以上、そしてほぼすべての高度AIアクセラレーター向けチップを生産しており、世界のデジタル経済にとって「安定の柱」となっている。台湾海峡で危機が生じれば、インド太平洋の安全が大きく損なわれるだけでなく、世界のハイテク・サプライチェーンが断絶し、第二次世界大戦以来最も深刻な経済・地政学的衝撃を引き起こすだろう。
中国が軍備を増強する中、台湾は2026年、防衛費を300億米ドル引き上げ、対GDP比約3.32%とする予定だ。2030年にはNATO基準で対GDP比5%を目指す。台湾は「社会全体の防衛のレジリエンス強化」を目指しており、それには軍事、民間防衛、エネルギー、通信、サイバーセキュリティ、重要インフラなど広範な分野を含む。これらはいずれも台湾と欧州が協力を深める重要領域である。
欧州が近年台湾に強い関心を寄せていることを歓迎する。EUはさまざまな国際会合において、台湾海峡の平和と安定が欧州の直接的利益に関わると強調しているほか、複数の欧州諸国の艦艇が台湾海峡を通過したり、インド太平洋での合同訓練に参加している。またこの4か月間で、欧州のある国はインド太平洋地域で実施した大規模軍事演習が15回を超えている。このことからも、欧州とインド太平洋の安全保障が急速に結びつきを深めていることが分かる。
さらに、欧州は台湾にとって最大の外国直接投資元である。また、台湾の対欧州投資を見ても、過去4年間の投資額が、過去40年分の合計を上回った。TSMCのドレスデン工場建設は双方の間に深い信頼関係があることの象徴であり、台湾と欧州は「信頼・テクノロジー・台湾」(Triple T)を軸に、半導体、AI、通信分野で協力を推進すべきだ。
台湾と欧州は、権威主義勢力による認知戦、サイバー攻撃、経済的威圧、ハイブリッド戦の脅威に共に立ち向かい、サプライチェーンの安全と社会のレジリエンスを確保するために協力できるだろう。
最後に、過去の人々が戦争の廃墟から文明を再建したように、今、その責任は私たちにある。歴史が再び岐路に立ついま、台湾は民主主義を守り、レジリエンスを強化し、世界の安定に貢献することを選択する。欧州もまた選択を迫られている。もし台湾を軽視するのであれば、欧州自らが長年守ってきた安全と価値を損なうことになる。台湾と欧州が手を携えることによって、現状を維持し、テクノロジーが人類に奉仕し、信頼が繁栄をもたらし、「自由・民主主義・人権の太陽が沈まぬ世界」を共に築くことができるだろう。
★★★★★
ドイツで毎年開催される「ベルリン・セキュリティ・カンファレンス」は、欧州における主要且つ大規模な安全保障会議の一つであり、外交・防衛・経済などの分野の世界的リーダーが参加し、欧州および世界の安全保障の問題について議論する。呉政務次長は基調講演を行ったほか、年次総会の特集誌にも寄稿した。このほか、台湾の国防部の関係者も軍服を着用して分科会に参加。台湾・欧州間の防衛研究や開発協力について各国のシンクタンク関係者や専門家と深い意見交換を行った。