2026/05/27

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文化・社会

『韓石泉回想録』日本で出版、台湾近現代史に新たな視点

2017/11/03
日本・東京都にある台北駐日経済文化代表処台湾文化センターは10月29日、韓石泉医師の自叙伝『六十回憶』の日本語訳である『韓石泉回想録─医師のみた台湾近現代史』の刊行記念講演会を開催した。韓石泉医師の息子で、国立台湾大学の名誉教授である韓良俊さん(立っている男性)が講演を行った。(中央社)
韓内児科診所(内科・小児科の診療所)は、台湾南部・台南市の市民にはなじみ深い場所だ。地元の人たちにとっては「目印」のような存在だからだ。白い洋風の建築に、青々と生い茂った植物で覆われた入り口。そこには、植物が大きなハートの形に刈り込まれている。診療所なのだが、おのずと足を止めてしまう。わざわざここまで車で乗り付け、写真を撮っていく観光客もいるという。しかし、ここが名医、韓石泉(1897-1963年)医師の住居であったということを知る人は多くないだろう。
 
韓石泉医師は日本占領時代の台湾で、台湾総督府医学校(現在の国立台湾大学医学院)を卒業し、1929年、台南に診療所を開いた。しかし、その人生は決して順風満帆なものではなかった。最初に生まれた子どもは、1歳の頃に肺炎と脳膜炎の合併症で亡くなった。医師でありながら、自分の子どもの命を救えなかったことに自身の無力を痛感した。第二次世界大戦中、日本の植民地だった台湾は米国を中心とした連合国軍の攻撃の対象となり、台南もたびたび空襲を受けた。救護員として働いていた長女の韓淑英さんは、1945年3月1日の空襲で命を落とした。18歳になる前のことだった。空襲は韓石泉医師からすべてを奪った。住む場所も、大事な資料もすべて灰になった。韓石泉医師は戦争の残酷さと醜さを、深く痛感した。
 
韓石泉医師はその一生を医療に捧げたが、日本占領時代には政治社会運動や文化運動にも加わった。1921年に台湾で設立された文化的啓蒙を目的とする民間団体「台湾文化協会」にも加入した。1923年には政治社会運動に参加し、治安警察法違反事件で逮捕されたが、後に無罪判決を受けた。戦後は台湾省参議会第1期議員として二・二八事件処理委委員会主任委員を務めるなど、二・二八事件による台南へのダメージを最小限に抑えることに尽力した。政界を去った後は、教育や慈善事業などに力を入れた。
 
日本・東京都にある台北駐日経済文化代表処台湾文化センターは10月29日、韓石泉医師の自叙伝『六十回憶』の日本語訳である『韓石泉回想録─医師のみた台湾近現代史』の刊行記念講演会を開催した。自叙伝『六十回憶』は、韓石泉医師が生前に書き記したもので、家系、学業、結婚、医業、そして日本占領時代における抗日民族運動との関わり、戦後の政界での活躍などについて詳細に記録している。台湾近現代史における一次史料でもある。
 
日本語翻訳を手掛けたのは一橋大学の洪郁如教授と法政大学の杉山公子講師。翻訳に約5年の歳月を費やした。10月29日は韓石泉医師の息子で、国立台湾大学の名誉教授である韓良俊さんが刊行記念講演を行った。韓良俊さんが日本語版の刊行を思い立ったのは1997年のこと。父親の生誕100歳を迎えるに当たり、特に第二次世界大戦や台南大空襲について、もっと多くの日本人に知ってもらいたいと考えたのだという。
 
講演では、「戦時中に台湾、台南までもが空襲を受けていたとは知らなかった。日本だけが被害を受けたと思っていた」とある日本人女性が韓良俊さんに語った。韓良俊さんはこの女性に対し、当時台湾は日本の植民統治を受けていたため、連合国軍から攻撃の対象になったのだが、「そういう事実を、特に日本人には理解して欲しいと考えている。しかも、しっかりと反省して欲しい。戦争はダメだ、戦争は避けなくてはいけないと言うだけではいけない。なぜなら一旦侵略を受けたら、戦争を避けることはできないからだ。しかし、より重要なことは自らが戦争を発動しないこと。これが重要だ」と強調した。
 
翻訳者の一人、洪郁如教授は、「この本は日本の読者に、台湾近現代史に対するこれまでとは違う視点を投げかけるもので、その意義は非常に大きい」と話す。日本で出版されている台湾研究書や台湾を紹介する書籍は多いが、奥が深いものは多くない。日本の一般読者が台湾の歴史、特に日本占領時代の台湾について、そして台湾の人々がその50年間をどのように生きてきたのかを知ろうとするならば、より奥の深い書籍が必要だ。そういう意味では、この『韓石泉回想録』は韓石泉が生きた3つの時代(清朝、日本占領時代、国民政府時代)が描かれている。両親は清朝時代の人物であり、韓石泉が幼少時代に見たり感じたりしたこととは、戦時中に生まれた台湾の人々の「日本経験」とは全く違うことが分かる。
 
韓良俊さんはその後の取材に対し、「父はこの本の中で、日本占領時代の台湾について多く書いている。第二次世界大戦中は、日本の巻き添えを受けて台湾も連合国軍による空爆を受け、多くの人々が犠牲となった。今回の日本での講演を通して、日本の人々に台湾が日本の植民地であったという歴史を知ってもらい、さらには多くの台湾の人々が犠牲になったことを知り、二度と戦争を起こさないことを改めて誓ってほしい」と話した。
 

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