中国大陸の女性作家、趙思楽さんは自分たちの権利を求めて戦う女性たちを6年間取材、写真を交えた書籍として出版した。しかし、彼女が「微信(ウイチャット=中国大陸のメッセーンジャーアプリ)」で表示される自身の画像をこの本の表紙にしたところ、その画像は削除されたという。趙さんにとって台湾は間違いなく、「両岸三地(台湾、中国大陸、香港)」で唯一の「自由な紙面」なのである。
趙思楽さんは1990年生まれ。初めての著作、『她們的征途:直撃、迂迴與衝撞、中国女性的公民覚醒之路(彼女たちの長い道のり-直撃・迂回・衝突、中国女性の公民への覚醒の道)』が1日に台湾で出版された。近年の中国大陸における社会運動、運動に身を投じる人たちの家族の状況が記録されており、趙さんが特に紹介するのはそうした事件における女性の姿。
出版するのに台湾を選んだことについて趙さんは、世界で中国語が話されている場所のうち、台湾だけが「自由な紙面」だからだと説明。趙さんによれば、中国大陸に言論の自由は基本的に存在せず、中国大陸で出版した場合は長期的な迫害に遭うことになる。また、香港の新聞や出版業界も徐々に中国大陸の資本とイデオロギーに侵されている。
『她們的征途』を出版した台湾の八旗文化出版社はこれまでにも中国大陸の評論家、余杰氏の作品など、中国大陸の問題を取り扱った著作を複数世に送り出している。また、米国在住で中国大陸の経済と社会の発展にずっと関心を寄せてきた学者、何清漣氏と程暁農氏もこのところ、八旗文化を通じて自らの見解を発表している。
趙さんは、自分の知るところでは『她們的征途』はすでに3,000冊以上が台湾の市場に流通しており、台湾の人口からみれば「とても興奮する成績だ」と喜んだ。趙さんによると、中国語書籍を読める国や地域の中で台湾の読者の素養は最も高い。それについて趙さんは、台湾では厳粛な社会科学類の書籍でも初版で2,000冊から3,000冊が刷られると指摘、台湾の人口2,300万人を考慮すればほぼ1万人に1人がこうした硬い本を読んでいることになると分析した。
13億人を擁する中国大陸にこの割合を当てはめれば、厳粛な本でも13万冊売れなければならないが、社会科学類の書籍は1、2万冊も売れれば「ヒット」なのが実情なのだという。趙さんは、「この点から台湾と中国大陸の差がわかる」として、台湾がこの割合で中国大陸よりずっと高いことが、自分が台湾の読者の素養は最高だとする根拠なのだと説明した。台湾のインターネット上では、「酸民風気(人をさげすんで喜ぶ風潮)」が普遍的になっているが、趙さんの目には、「台湾の読者は公共の場において理性的、かつ自由に意見を戦わせることが出来る」と映るのであろう。
趙さんの民主に対する概念は自然に出来上がった。中国大陸・広州での成長過程において、香港や台湾の文化の影響を深く受けたおかげだという。彼女はさらに2011年、中国大陸の学生の身分で台湾にやってきた。なじみ深い台湾の最も得がたいところとして趙さんは、「開放的で自由なところ」だとし、これからもそうした台湾でいてくれることを願った。
一方、寇延丁さんは台湾の人たちの知る、中国大陸における典型的な「異議人士(反体制分子)」とは異なる。彼女は自らを「行動者」と呼ぶ。台湾や香港での社会運動に参与したことで当局に勾留されたことはあるが、その著作『可操作的民主(操作可能な民主)』は中国大陸の一部地方自治体が購入書籍リストに入れている。
昨年まで寇延丁さんは、どちらかといえば中国大陸において公益活動を行う人、そして社会運動を進める人として広く知られていた。寇さんは2007年、末端での議事規則の普及から取り掛かり、2012年には公益活動に従事する袁天鵬氏と共に『可操作的民主-羅伯特議事規則下郷全記録(ロバート議事規則の地方での推進記録)』を出版した。同著作では、中国大陸・安徽省阜陽穎州南塘村における議事規則の普及を紹介し、中国大陸の「体制内」で大好評を得た。寇さんはこれにより、「公和基金会」による2012年を代表する人物に選ばれ、中国大陸の公式メディアの取材にも応じた。しかし、寇延丁さんは2014年に台湾を訪れ、「ひまわり学生運動」に参加、9月には香港に移動して、「セントラル占領活動」(香港での反政府デモ)に加わったことで、中国大陸の「体制内」で評価されていた人物から、当局による逮捕と勾留対象の、「国家転覆」に関わった重要な犯人へと一変したのである。
寇延丁さんが2015年に出版した、『敵人是怎樣煉成的(敵はどのように作られるのか)』は、彼女が勾留され、取り調べられた128日間の状況を詳しく紹介している。寇さんはその後釈放されたものの、本当の意味での自由は得られていない。2016年末、寇さんは学者として台湾を訪れて1年間滞在した。「台湾に逃げてきたんだ」と笑う寇さんは過去1年、台湾の各地を訪れ、北東部・宜蘭県員山郷の深溝村で小規模農家の開放されたコミュニティを研究した。
彼女は、台湾の持つ組織的なイノベーションの力とそれを実践した成果は、自身が今後中国大陸における末端の民主を整備し、推進していく上で多くの啓発を与えてくれた他、より貴重なことは台湾の民間組織の力強さだと話した。「台湾の自由は自分にとって非常に重要だ」とする寇さんは、台湾が持つ自由な空気は、強く圧迫されてきた「行動者」に一息つかせてくれ、より多くの希望を与えてくれると語った。