2025/09/10

Taiwan Today

文化・社会

台湾は「呼吸の出来る場所」シリーズ(5)反体制派の声伝える出版社

2017/12/11
中国大陸において良心や自由をはじめとする様々な理由で迫害されている人々にとって、台湾は「一息つける」窓であると共に、自らの声を外部に伝えられる窓でもある。それを担うのが台湾の出版社。左は允晨出版の廖志峰さん。右は主流出版社の鄭超睿さん。(中央社)
中国大陸において良心や自由をはじめとする様々な理由で迫害されている人々にとって、台湾は「一息つける」窓であると共に、自らの声を外部に伝えられる窓でもある。中国大陸の作家、廖亦武氏は長期にわたって中国大陸における底辺の社会と政権による圧迫に関心を寄せてきた。彼が注目されるようになった作品、『中国底層訪談録(中国大陸の底辺の人々へのインタビュー記録)』は中国大陸で発禁となったが、2003年に密貿易を経て、台湾の出版社によって日の目を見ることとなった。廖亦武氏は近年、精力的に執筆活動を行っており、著作は様々な言語で出版されている。中国語版は台湾の允晨出版(允晨文化実業株式会社)が独占的に出版し、中国語が使われる世界各地にその声を伝えている。
 
允晨出版では、『出中国記:我的反動自述(出中国記:わたしの「反革命」発言)』を著した康正果氏、『六四天安門血腥清場記録(天安門事件流血鎮圧記録)』の呉仁華氏、『大国沈淪(大国の沈淪)』の劉暁波氏、『来生不做中国人(来世は中国人に生まれず)』の鍾祖康氏、長期にわたってチベット問題に関心を寄せる茉莉氏、唯色氏など、中国大陸で「反体制」とされる人たちの作品を30作品以上出版してきた。これらの作品には文学芸術に属するものもあるが、より多くの作品は「時代の記録」。これら中国大陸で発禁となった文字と声は台湾を通じて海外に伝えられ、また、中国に向けた声にもなっている。
 
允晨出版の発行人、廖志峰さんによれば、こうした書籍の主な読者は香港の人たち。允晨出版は、かつて「六四天安門事件」での民主化運動に参加し、権利擁護を訴えてきた李劼氏の『百年風雨』を出版している。年間販売部数6,000部のうち2,000部は、閉鎖される前の香港「銅鑼湾書店」を通じて予約されたという。
 
廖志峰さんは淡江大学(台湾北部・新北市)中国文学科の卒業生で、本来政治に興味はなかった。しかし、2005年に康正果氏の『出中国記:我的反動自述』を出版したのをきっかけに康氏を通じて廖亦武氏と知り合い、そこからさらに中国大陸で人権の擁護に取り組んでいる、より多くの人々を知ることになった。允晨出版は今では、中国大陸の政治を語る書籍の代表的な出版社となっている。允晨出版は過去十年あまり、中国大陸で「反体制」とされる多くの人々に、外に通じる窓を開いている。そして台湾を意外にも、中国大陸を知るための、もう一つのルートにしているのである。
 
一方、主流出版社は中国大陸の「反体制」作家、余杰氏の作品をこれまでに多く出版してきた。発行人の鄭超睿さんは、台湾は「両岸三地(台湾・中国大陸・香港)」で出版が最も自由な場所だとし、こうした精神を大切にする必要性を説いた。また、毎年の図書出版量で台湾は「大国」なのだという。
 
主流出版社の発行人兼社長である鄭超睿さんは1990年に台湾で起きた「野百合学生運動(三月学運)」のメンバー。兵役を終えると立法委員(国会議員)のアシスタントを務めた他、台湾の大手日刊紙「自由時報」が実施した、台湾の国連復帰に関する作文コンテストの社会人部門トップを獲得、報道記者となる道もあった。しかし、それまでの執筆活動の経験から鄭超睿さんは、出版こそが社会に影響をもたらす重要な力だと考えた。
 
余杰氏と知り合ったのは2人が共にキリスト教徒だったから。友人たちの集会で初めて対面し、出版で協力していくことを話し合った。鄭超睿さんは、論述能力のある人はとても大切だとしている。鄭超睿さんは自分が「野百合学生運動」に参加したこと、そして中国大陸での「六四天安門事件」にも関心を寄せていたことから、中国大陸での民主化には常に期待しているのだという。
 
鄭超睿さんによると、台湾も権威主義の時代を経験し、当時世界は台湾における人権問題に注目していた。このため海外で暮らす台湾出身者は絶えず文章を書いては、世界に台湾のことを伝え続けた。これは同時に、台湾の人たちが海外から情報を得ることにもつながった。鄭さんは、今では台湾の役割は変化し、力を持つようになっており、当然世界に貢献していくべきだと訴える。
 
「出版業は不景気だが、その影響力を大切にしたい」とする鄭超睿さんは、言論の自由の精神は、台湾で最も美しい風景なのだと話している。そして、鄭さんにとって、台湾は間違いなく、「両岸三地」で出版と言論の自由が最も保障されている場所なのである。
 
余杰氏の著作を出版しようとする出版社は減少気味だという。それはまず売り上げに対する懸念が原因。余杰氏の取り扱うテーマは比較的大きく、簡単に読めるものではない。また、出版社が中国大陸とのビジネスによる利益を考慮し、中国大陸側に「にらまれる」のを恐れることも理由だという。それでも鄭超睿さんは台湾の市場について楽観的な態度を崩さない。鄭さんは、台湾における2,300万人あまりの人口は決して大きな規模ではないが、台湾における出版社の密度は世界トップレベルで、年間の出版図書数量も世界トップだと説明、出版業から見れば台湾は極めて魅力的な市場なのだと話している。
 
 

ランキング

新着